小学校への「出前授業」で「食育」を応援する 味の素㈱の取り組み

 静岡県の栄養教諭・学校栄養職員講習会では、「和食、うま味について」の講演が好評でした。今問われる社会的課題「食育」に長年取り組んできた味の素㈱の活動と想いとは――。

静岡県が「食育」を中心とした講習会開催

講習会場となった静岡県男女共同参画センターあざれあ(静岡市)
講習会場となった静岡県男女共同参画センターあざれあ(静岡市)

 去る7月31日、静岡県教育委員会は学校給食等を担う栄養教諭・学校栄養職員等を対象とした講習会を開催しました。政令指定都市を除く公立小中学校・特別支援学校に在籍する栄養教諭・学校栄養職員等にとっては悉皆研修です。今回の講習会のテーマは、学校給食における管理と、学校における食育の推進で、とりわけ食育について多くの時間が割かれました。

 午前は「学校給食における管理」、「学校における食育の推進」について県教育委員会 健康体育課 健康食育班から、また午後の「食育指導者養成研修 伝達講習」では県内小中学校の各栄養教諭から話がありました。学校給食等を担う人々にとっては、それぞれ必須となる重要な伝達講習となりました。

 この日、特に注目されたのが、最後に行われた講演「和食、うま味について」です。県教育委員会から味の素㈱への依頼で実現したこの講演は、出席者からの評価も高く、行政が民間企業の力を活用した好事例となりました。

好評だった講演「和食、うま味について」

 その講演を行ったのは、味の素㈱ グローバルコミュニケーション部の齋藤由里子講師(サイエンスグループ マネージャー)と、NPO法人うま味インフォメーションセンターの勝田幸代講師(広報担当 管理栄養士・調理師)です。

 講演のはじめに齋藤講師からは、味の素㈱は小学校で「出前授業」を10年以上続けており(詳細は後述)、こうした活動や先生方のお声を通じて、「食育への課題は学校給食に携わる皆さま方と一緒です」と課題と想いを共有していることを明らかにしました。

 その上で、今回の講演で、「身近な『だし』、『うま味』、『和食』について何かを発見していただき、子どもたちへの食育のヒントを持ち帰っていただければ」と、狙いが示されました。

 「1.和食について」では、ユネスコの無形文化遺産に登録された「和食」の特徴を解説。和食が、① 多様で新鮮な食材と、その持ち味を尊重していること(静岡県が食材の宝庫であることも紹介)、 ② 健康的な食生活を支える栄養バランスを備えていること、 ③ 自然の美しさや季節の移ろいを表現するものであること、 ④ 年中行事と密接な関わりをもつこと、が詳しく説明されました。

 「2.うま味について」では、味を感じる仕組み、アミノ酸がたんぱく質となって生命を司っていること、たんぱく質の味、甘味・酸味・塩味・苦味と並ぶ基本味の1つであるうま味を日本人が大発見したこと、うま味の特徴などをわかりやすく紹介。

 「3.『だし・うま味』を伝えよう! ~実践編~」では、実際に使用する紙芝居を使って、小学5、6年生向けの出前授業を模擬実演。「授業実践のポイント」も具体的にアドバイス。たいへんわかりやすい内容で、受講者の共感を呼んでいました。

子どもたちの食にまつわる課題に始まり、和食の特徴、うま味について、写真やイラストをふんだんに使って解説。最後は、実際に使う紙芝居で出前授業を模擬実演

「新鮮な内容」「すぐにこれからの授業に活かしたい」

 講習会のあと、受講したお2人(いずれも栄養教諭)に感想を語り合っていただきました。

 

Aさん=講習会全体としては、学校給食における管理、食育の推進について再確認し、責任を感じ、身が引き締まる思いでした。特に味の素さんからは、たいへん興味深いお話が聞けました。企業の方がこういう研修会で講演されたことが今までなかったので、とても新鮮でした。

 

Bさん=Aさんが言われるように、特に味の素さんの講演では、興味深いお話がたくさんありました。講師の方お2人がとてもパワフルで、お話し上手。感心しました。

 

Aさん=味の素さんの食卓・食事調査は、行政とは違った視点からのもので興味深く、さすがと思いました。企業とはいえ、学校現場のことをよく把握され、食育についても踏みこんで話していただいて、とても引きこまれました。すぐに活用できる内容でした。紙芝居は、学校の教材としてしっかり研究され、完成されていて、びっくりしました。

 

Bさん=「企業のプレゼンテーションは素晴らしいな、子どもたちも興味を持って熱心に聞いてくれるだろうな」と感じながら、講演を聞いていました。試飲体験も含め、授業のやり方が参考になります。これからの授業に採り入れていきたいですね。

 

Aさん=特に印象に残っているのは、和食文化の素晴らしさについてです。うま味のことも含め、もう一度子どもたちに教える必要があるな、と痛感しました。給食を活用して、子どもたちにもっともっとわかりやすく理解してもらえるようにしたいですね。

 

Bさん=和食の大切さやうま味について、知らなかったことが多々ありました。例えば、母乳や羊水にもうま味成分(グルタミン酸)が含まれていることは初めて聞き、とても勉強になりました。

 

Aさん=長年、静岡にいると、地元のよさを振り返る機会が少ないものです。地場産業の活用は課題ですが、今日は味の素さんから静岡県の食材の特徴に触れていただきました。地域や食文化について改めて教えながら、うま味や和食文化を伝えていきたいですね。

 

Bさん=恥ずかしながら、県民として、また栄養士として知らないことがあり、和食の定義や良さなど、今までしっかり認識できていませんでした。これからの授業に活かしたいと思います。

 

 このように、「和食、うま味について」の講演が出席者の方々に大きな刺激を与え、理解への深まりを促し、学校での食育のヒントを多々与えたようでした。

講演前に「和食、うま味について」の資料を受け取る参加者
            講演前に「和食、うま味について」の資料を受け取る参加者
この日、「だし、うま味について」講演用に配布された教材や参考資料の一部
この日、「だし、うま味について」講演用に配布された教材や参考資料の一部
出前授業で使われる「味のひみつ」の紙芝居は全16枚。指導案も付いている。テキスト・教材は教育関係の有識者と協働でオリジナル開発
出前授業で使われる「味のひみつ」の紙芝居は全16枚。指導案も付いている。テキスト・教材は教育関係の有識者と協働でオリジナル開発

最先端のコンテンツを持つ企業の力を活用

 主催者である県教育委員会事務局の渡邊剛司氏(健康体育課 健康食育班 教育主任)は、今回味の素㈱等を招いた経緯をこう語ります。

渡邊剛司氏
       渡邊剛司氏

 「毎年、講習会を開催していますが、これまで講師としてお招きするのはだいたい公的機関の方でした。ただ、今年は教育委員会内で『和食』をテーマにしたいと考えておりました。以前ご挨拶をいただいた味の素㈱様にリクエストしたところ、ご快諾をいただきました。お互いの想いが合致して、実現しました」

 渡邊氏はまた、この日の講演を次のように振り返ります。「日々消費者と直接接している企業様は、つねにアンテナを高く張って活動をされています。味の素㈱様は和食やうま味というテーマで最先端のコンテンツを持っていらっしゃいます。様々な場での経験をお持ちの講師の方から、とてもいいお話をいただき、たいへん参考になりました」

 また、他団体との連携についても言及します。「午前中の講習の中では、私からも、地域のいろいろな関係団体と連携することの必要性、大切さをお話ししました。ですので、このように連携できるのは、とてもいいこと。食育についても、さまざまな角度から見ていくことが大事です。これからも、そういう選択肢をもって、給食や食育を実践していきたいと考えています」

子どもの食をめぐる課題解決の一助に、との思い

 味の素㈱では、今回のように給食担当の教諭らを対象とした研修も行っていますが、前述したように、小学5、6年生向けに「出前授業」を長年続けてきました。

 「だし・うま味の味覚教室」と名づけられたこの出前授業は、次世代を担う子どもたちに、「だし」「うま味」「味覚」を楽しく学んでもらう食育プログラムです。スライドとオリジナル教材を使い、だしの試飲、だし素材の観察等を交えた体験型の授業です。

 このプロジェクトを推進する味の素㈱ 広報部の岩水一生氏(直接コミュニケーショングループ長 兼 味の素グループうま味体験館 館長)に、お話を伺いました。  

岩水一生氏
          岩水一生氏

「出前授業は、2005年の食育基本法制定を踏まえ、翌年からスタートし、全国で年間約100校、300クラス、受講小学生10,000人規模で実施しています。家庭科、総合的な学習の時間に導入されることが多く、ご好評をいただき、生徒さんが繰り上がるとリピートでご依頼をいただくことが多くあります。われわれの体制が許す限り、リピート校を大切にしつつ、新しいエリアでも出前授業を広められれば、と願っています」

 では、なぜ味の素㈱は学校での「食育」を応援しているのでしょうか。

 「私どもとしては、食べ物をおいしいと感じる大切な味である『うま味』をしっかり理解していただきたい。特に子どものときに基本を学ぶことが大切だと考えております。他方、朝食を摂らない、偏食、野菜嫌い……などでお悩みになっている学校の先生方のお声をしばしば耳にします。そういう先生方の課題解決につなげられれば、という想いもございます」

事業を通じた社会課題の解決こそ企業使命!

 じつは、同社の「出前授業」の講師派遣には、ユニークなこだわりがあります。

 岩水氏は、こう説明します。

 「弊社が派遣する講師を務めるのは全員味の素㈱の社員で、しかも地域密着型を貫き、原則として各エリアに勤務する社員が出向きます。講師を希望する社員は社内で講師育成研修を受講して初めて講師の資格を得ます。しかも参画するのは特定の部門ではなく、営業、工場、研究所、本社等、あらゆる部門に及びます。このようなシステムをとっている背景には、当社のASVという考え方があります」

 

 ASV(Ajinomoto Group Shared Value)とは、味の素㈱が掲げる企業理念です。これは、味の素グループにしかできない事業を通じて、社会価値と経済価値を共創する取り組みです。21世紀の人類社会の課題を「健康なこころとからだ」「食資源」「地球持続性」の3つと定める同社は、これらの社会課題を事業を通じて解決し、持続可能な社会の実現に貢献していくことを企業使命と位置づけて、さまざまな取り組みを進めています。

 

 「おいしく食べる」ことで健康な社会を築くための活動も、ASVの一環です。したがって、出前事業の講師を務めて、地域で食育という重要な社会課題の一端を担うことも、企業理念に沿うものなのです。

 

 「社員講師たちは社会課題の解決の一助となることを使命ととらえ、10年以上実践してきました。お陰様で出前授業が定着し、評価をたくさんいただくようになりました。延べ10万人の子どもさんたちに、うま味や和食を伝えてきました。少しずつでも食に対する考えが変わってくれれば、うれしく思います。今後も、市町村等、自治体の皆さまからお声をかけていただければ、できるかぎりのお手伝いをさせていただきます」

 岩水氏は話をこう結びました。


全国各地の小学校で出前授業に参画する味の素㈱の社員

 静岡県教育委員会の渡邊氏が、さまざまな団体との連携の必要性について触れたように、健康都市活動を推進するにあたっては、自治体、民間企業、市民ボランティア、学術団体等、多様な団体間の連携が求められます。

 食についてのさまざまなデータ、ノウハウを持つ味の素㈱の「出前授業」、食育支援も、社会的課題の解決に向けた役割をしっかり担っています。こうした民間の力を、食育や健康づくりにうまく活用する動きが広がりつつあります。



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