「STOP! 肥満症」――肥満症予防にかける想い、そして地域との取り組み

 「内臓脂肪を減らして健康に!」を掲げる日本肥満症予防協会と、そのオフィシャルパートナー花王はこの2年間、自治体や協会けんぽ等と連携して全国各地で内臓脂肪測定会を開催。2017年10月末現在、累計の測定者数はついに1万人を突破。

このたび京都で開催された啓発活動を取材しました。

健康都市活動支援機構レポート No.11

「STOP! 肥満症」推進月間に京都・桂川の大型商業施設で

 10月中旬の週末、ショッピングを楽しむ家族連れで賑わうイオンモール京都桂川で、「STOP!肥満症」を掲げる大きなイベントが開かれました。一般社団法人日本肥満症予防協会が主催し、京都府・京都市・向日市、そして協会けんぽ(全国健康保険協会)京都支部が後援、花王、帝人が特別協力する催しです。

 肥満症は、糖尿病や脂質異常症、高血圧などを引き起こすだけでなく、心筋梗塞、脳卒中などの動脈硬化性疾患の原因となります。こうした健康障害をもたらす元となるのが内臓脂肪です。

 「内臓脂肪を減らして健康に!」をキャッチフレーズに設立された日本肥満症予防協会は、肥満症関連疾患の臨床を行う医師や医療スタッフ、保健指導スタッフだけでなく、健康維持や肥満症予防に関わる企業とも連携し、肥満症予防の啓発活動を行っています。

 同協会と日本肥満学会では昨年から毎年10月を「STOP!肥満症」推進月間と定め、肥満症への理解と、肥満症予防の普及・啓発を図っています。2回目となる今年は京都を舞台に、肥満症予防に重要な食生活、睡眠、運動をテーマとした特別セミナーと内臓脂肪等の測定体験を通じて、「内臓脂肪を減らして健康に!」と呼びかけました。

「内臓脂肪をためない食事法」

 10月14日(土)に3階イオンホールで開かれた「特別セミナー」には、200名の市民が参加。食生活、睡眠、運動の視点から、各専門家が肥満症予防の具体的な方法をレクチャー。質疑応答では多数の質問が寄せられ、関心の高さが伺えました(下表参照)。

 一方、買い物客が往来する1階竹の広場では、14、15の両日、「測定体験とミニセミナー」が実施されました。

 「ミニセミナー」では、日本肥満症予防協会の宮崎滋副理事長(公益財団法人結核予防会理事・総合健診推進センター長)による「肥満症予防」など、4つのプログラムが組まれました。

 この中で、食事法に関するミニセミナーも注目を集めました。管理栄養士荒木万里子氏による、「目からウロコの食事法 ~スマート和食~」です。1万人以上の内臓脂肪と食生活の関係性を調べ、研究した結果見出された「内臓脂肪をためない食事法」をわかりやすく解説。このミニセミナーに参加した50代の女性は、「食べる量を減らさなくても、バランスをうまくとればよいことがわかりました。自分にも簡単に工夫できるヒントをたくさんいただきました」と納得の表情でした。

カロリー制限ばかりを強いない、健康的な食事法として今後注目されそうです。

「測って、気づき、改善へ」

 「測定体験会」コーナーでは、内臓脂肪測定や快眠体験、血管年齢測定のブースが設けられました。

 肥満には、体の表面に付く「皮下脂肪型肥満」と、内臓の周囲や隙間に付く「内臓脂肪型肥満」があります。健康寿命の延伸を阻む脳卒中、心疾患、糖尿病などのリスクとなるのが、この「内臓脂肪型肥満」です。ところが、これまで内臓脂肪はX線CTを用いなければ測定することができませんでした。しかし、花王らが開発した技術は、この測定をどこでも簡単にできるようにしました。花王の内臓脂肪測定体験では、簡便かつ安全に内臓脂肪が測定できるとあって多数の応募があり、2日間で500名以上の方が参加する賑わいとなりました。初めて測る参加者が多く、「測ることで、内臓脂肪を意識することができた」「肥満ではないと思っていたが、内臓脂肪が多めとわかったので、減らすように努力したい」といった感想が聞こえてきました。

 セミナーを受講した後、測定に足を運ぶ方も多く、「講演で学び、体験できる」という日本肥満症予防協会の狙い通りのイベントとなりました。


内臓脂肪の「測定体験」コーナー  

(左)内臓脂肪の模型、内臓脂肪計がコーナー前に置かれ、行き交う人々の注目を集める  

(中)測定を希望し順番を待つ方々が老若男女を問わず続々と

(右)測定結果シートで内臓脂肪がみえる化され、担当者の説明に納得

「企業や諸団体とのコラボが必要」

 後援した行政や協会けんぽの担当者の目に、今回のイベントはどう映ったのでしょうか。伺ってみました。

京都府健康福祉部健康対策課 健康長寿・未病改善・担当課 課長 竹原智美氏

 「京都府では、20代から60歳前後の働き盛り世代の肥満が増加傾向にあります。仕事中心で、運動や食生活に課題がありそうです。行政が開催するイベントでは参加者がもともと関心を持つ層に限られ、あまり関心を持たない方には私どもの声が届きにくいのが実状です。今回は多くの市民が行き交う場でのイベントなので、ご家族連れの方が気軽にセミナーに参加したり、測定するきっかけとなり、とてもよいことです。行政だけでは健康づくりはできません。企業やさまざまな団体とコラボレーションできれば、たいへんありがたいですね」

 

・京都市保健福祉局健康長寿のまち・京都推進室健康長寿推進課 課長 塩山晃弘氏

 「京都市も『健康長寿のまち・京都』を実現する取り組みをさまざまな形で進めています。地域の方々がより長く健康でいただけるよう、こうした取り組みをしっかり進めたい」

・向日市健康福祉部 健康推進課 課長 井口珠実氏

 「平成20年度から国をあげて特定健診(メタボ健診)が始まり、向日市でも市民の健康維持と医療費抑制のため、保健指導に力を入れ、ここ数年受診率が上がっています。こうしたイベントがきっかけとなり、ご自分の体の中を意識する機会が増えればたいへんうれしく思います。行政だけで動機づけを図るのは、費用も含めてなかなか大変です。そのあたりを民間や団体の方がサポートしてくださるのはとてもありがたいことです」

・協会けんぽ京都支部 支部長 守殿俊二氏

 「特定健診が始まって10年経ちました。協会けんぽも時を同じくしてできた組織です。健診は保健事業の一番の基本と位置づけ、特定健診、とくに生活習慣病の予防健診を推進しています。健診受診率は被保険者(本人)の半分を少し超えたところ。ご家族の方となると、京都府では2割ほど。今日のようなイベントをきかっけに健診を受けていただき、メタボかどうか、どんな状態かをまず知っていただくことが大事です。今回の催しが、『STOP! 肥満症』への動機づけになることを願ってやみません」 

 どなたも、日本肥満症予防協会と行政、民間企業が連携するこうした取り組みに期待を寄せ、また効果を実感しているようでした。

「STOP! 肥満症」2年間連携の成果を踏まえ

 主催者である日本肥満症予防協会の松澤佑次理事長は、協会の狙いと決意を次のように語ります。

 「昨年に推進月間を設け、今年は2回目となりますが、一般的な肥満(太り気味)と肥満症(病気につながる肥満)との違いへの正しい理解を広げるていくことを狙いとしています。行政が健康長寿をスローガンとする中、国民の健康意識が高まり、医療費の削減も含め、効果が現れつつあります。今回も、たいへんいいタイミングでイベントを開催できました。メタボ健診の受診率がまだ5割程度なので、この数字をさらに上げ、メタボリックシンドローム・肥満症対策を進め、国家プロジェクトである『日本人の健康寿命の延伸』に大きく貢献したい。それが私ども協会の一番大きな願いです」

 最後に、イベントに特別協力した花王のエクゼクティブフェロー・安川拓次氏に、日本肥満症予防協会のオフィシャル

パートナーとして取り組んできた想いについて伺いました。

 「花王はヘルスケア事業に取り組み、日常の中で“気づき”を与えるお手伝いを展開してきました。そのひとつが『内臓脂肪に着眼した健康改善支援事業』です。

 具体的には、内臓脂肪をみえる化する内臓脂肪計を開発。これによってBMIが25未満と正常であるにもかかわらず、内臓脂肪の面積が100㎝2を超える“隠れ内臓脂肪肥満”の比率が男性では13.3%に達することがわかりました。ご自分は大丈夫だと思っていても、疾病のリスクが高い人もいます。

 花王は日本肥満症予防協会のオフィシャルパートナーとして協会と連携し、内臓脂肪測定(『内臓脂肪みえる化ステーション』)を実施。この2年間で全国13道府県と連携し1万人を超える内臓脂肪を測り、その改善を支援してきました。参加してくださった方の中には、内臓脂肪が多いことを知ってショックを受ける方もいますが、『内臓脂肪は生活を変えれば減らせる』ということをお伝えしています。

 もうひとつは、『しっかり食べても内臓脂肪がたまりにくい食事法』の提供です。カロリーが600~700Kcalあって、しっかり食べて満足感が得られる『スマート和食』メニューを提案し、栄養バランスの改善で内臓脂肪の減少に寄与するものです。『スマート和食』に取り組まれた職場には、はっきり表れた数値の成果を喜んでいただいております。

 2年間のこうした活動成果を踏まえ、今後も日本肥満症予防協会との連携を強化し、『STOP!肥満症』の活動を通じて健康寿命の延伸に貢献していきたいと考えています」

 京都府や各市の担当者が指摘するように、肥満症予防・対策を幅広く浸透させるのは、行政単独ではなかなか難しい課題です。行政、専門の医療・保健指導スタッフ、そして健康維持や肥満症予防に取り組む企業とのコラボこそ、「健康寿命の延伸」へ向けた大きな力になることが改めて明らかになるイベントでした。

 

  ※「スマート和食」は、花王株式会社の登録商標です。



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