食と健康都市をテーマとするシンポジウムを平成28年2月2日(火)に東京医科歯科大学で開催しました。
本シンポジウムは平成27年度健康都市連合の国際支援プログラムの一環として実施したものです。
食と健康都市 ~日本とアジア諸国の食生活改善~
健康都市の基本は地域の人々が毎日を健やかに過ごすことにあります。さまざまな健康要因の中で最も重要なのが「食」です。この点、日本では食生活改善の取組みが根付いており、自治体やボランティア団体、学術団体、非営利団体、民間企業等がさまざまな活動を行っています。特に着実な成果を上げているのが、50年の歴史をもつ食生活改善推進員の取組みです。全国に協議会組織があり、その会員数はおよそ15万人に上ります。自主的な活動と行政への支援活動の両面から進めており、こうしたボランティア精神に基づく「草の根運動」が、食生活改善のための地区組織活動となっていることが、日本の大きな特徴です。
一方で生活様式の多様化に伴う食習慣の乱れや栄養バランスの偏りが肥満や過度な痩身を招くとともに、生活習慣病の原因を蔓延させているのも事実です。この傾向はアジア諸国にも表れており、政府主導による食育や伝統食の見直し、地産地消をはじめとする食生活の改善が進められています。
そこで本シンポジウムでは、基調講演で日本の食生活改善の歴史と現状についての知識を深め、今後ますます変化が予想される社会構造や国民のライフスタイルにどのように対応すべきかを展望しました。さらにASEAN諸国(フィリピン、ベトナム、カンボジア、シンガポール)からの報告をくわえ、各国の現状を踏まえた上で、日本とASEAN諸国に共通する解決策を模索しました。
以下、スライド等でシンポジウムの報告をします。
■主催:NGO健康都市活動支援機構
■共催:健康都市連合
■後援:健康都市連合日本支部
■助成:国際交流基金アジアセンター
■日時:2016年2月2日(火) 午前9:00~午後12:30
■会場:東京医科歯科大学 M&Dタワー2階講義室 入場無料
■スケジュール:
9:00~9:10 ご挨拶 千葉光行(NGO健康都市活動支援機構理事長)
9:10~9:30 健康都市連合の活動報告 中村桂子氏(健康都市連合事務局長)
9:30~10:50 講演 上谷律子氏(一般財団法人日本食生活協会会長)
テーマ「日本の食生活改善の歴史と現状」
10:50~11:00 休憩
11:00~12:30 ASEAN諸国からの食生活の現状と改善に関する報告
(フィリピン、ベトナム、カンボジア、シンガポール)
コーディネーター 中村桂子氏
基調講演
一般財団法人日本食生活協会会長 上谷律子氏
わが国の社会経済構造等が大きく変化していく中で国民のライフスタイルや価値観やニーズは多様化し、これに伴い生活環境や食生活も変化してきています。
特に、栄養の偏り、不規則な食事による生活習慣病の増加、若者の痩身志向、子供の孤食・個食や高齢者の低栄養問題、買い物弱者問題等は日々忙しい生活を送る中、「食」に対する大切さや感謝の念や理解が薄れ、「食」に対する意識が希薄になっています。規則正しい食生活、栄養バランスのとれた食事、家族で食卓を囲んだ楽しい食事等の望ましい姿の「健全な食生活」が失われつつあります。
そこで今回の基調講演では、戦後から現在までの食の歴史を、戦後の混乱期から回復期、高度経済成長期、現代の成熟期の4つに区分して社会の変化と国の取り組み、さらに日本食生活協会の活動を紹介します。
●時代の変遷による栄養摂取の変化
1. 戦後の混乱期から回復期1945~1955年(昭和20-30年)
(1950年:栄養摂取量2098?、タンパク質68.0gうち動物性17.0g、脂質18.0g)
主な出来事
・国民栄養調査・栄養改善運動始まる。(1945年)
・栄養改善法公布される。(1952年)
・学校給食法公布される。(1954年)
・栄養指導車(キッチンカー)巡回始まる。(1958年)
・六つの基礎食品が厚生省より通知され普及が始まる。(1958年)
・ボランティアによる食生活改善の推進が始まる。のちの食生活改善推進員(1967)
2. 高度経済成長期1955~1970年(昭和30-45年)
(1965年:栄養摂取量2184?、タンパク質71.3gうち動物性28.5g、脂質36.0g)
主な出来事
・第1次国民健康づくり対策始まる。10年おきに見直し( 1978-1988年)
3. 成熟期1970~1990年(昭和45-平成2年)
(1985年:栄養摂取量2188?、タンパク質79.0gうち動物性40.1g、脂質56.9g)
主な出来事
・日本型食生活が農林水産省から提唱(1983年)
・1日30品目を目標にと厚生省から指導始まる。(1985年)
・減塩テープによる減塩活動始まる。(1987年)
4. 停滞期1990年~現在(平成2年~現在)
(2010年:栄養摂取量1849?、タンパク質67.3gうち動物性36.0g、脂質53.7g)
主な出来事
・地域保健法が施行され、市町村にサービス業務が委譲される。(1994年)
・食生活指針が厚生省・農林水産省・文部省の3省で発表(2000年)
・第3次国民健康づくり対策を「健康日本21」と称した。(2000-20012年)
・第4健康次国民健康づくり対策「健康日本21(第2次) 」の取り組み始まる。(2013-2022年)
・食育基本法が公布される。5年置きに見直し(2005年)
・食事バランスガイドが発表される。(2005年)
・和食と日本の食文化が世界遺産に登録される。(2013年)
そうした時代の変遷を踏まえ、現在の日本人の食生活は動物性たんぱく質や脂質の増加等大きな変化を遂げました。
結果、感染症や脳出血などの疾病を減少させることにつながりました。
しかし一方では、がん、心疾患、脳卒中、糖尿病等の生活習慣病の増加が深刻な問題となってきており、この事は日々の食生活にも関連が大きいといわれています。
従って、食生活においては従来の栄養欠乏から過剰栄養に焦点をあてたものへと転換を図る事が求められています。
また食生活を取り巻く社会環境の変化に伴い、朝食欠食率の増加、調理食品や加工食品への依存度の増加、若者のダイエット志向、高齢者の孤食、食卓を中心とした家族の団らんの喪失は家庭内のコミュニケーション不足を招くなど、身体的、精神的な健康への影響が懸念されています。
人々が健康で良好な食生活の実現のためには、個人の行動変容とともに、それを支援する環境づくりが最も求められています。
健康都市連合の活動報告
健康都市連合事務局長 中村桂子氏
各国からの報告:カンボジア プノンペン市
プノンペン市保健部副部長ナジ・ミーン・ヘン博士(カンボジア)
各国からの報告:フィリピン タガイタイ市
タガイタイ市計画開発局計画開発調整官エミルマ・ペロ氏
各国からの報告:フィリピン マリキナ市
マリキナ市保健部医務官 アルベルト・ヘレラ博士
各国からの報告: シンガポール
健康促進庁(Health Promotion Board)イノベーション研究所副所長バネッサ・タン氏
各国からの報告: ベトナム フエ市
フエ市自立のための推進協議会(NGO団体)理事長ファン・バン・ハイ