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柏市フレイル予防サポーター 百まで元気なまちづくり

千葉県柏市では、市民から成るフレイル予防サポーターが自治体との協働で地域の健康づくりの担い手として活躍している。全国が注目する取組みについて、柏市永楽台近隣センターでのフレイルチェックの現場をレポートする。

地域ぐるみでのフレイル予防

神谷哲朗氏
神谷哲朗氏

 東京大学高齢社会総合研究機構神谷哲朗特任研究員によると、フレイルとは、「足腰が思ったように動かない」、「友だちと会わなくなった」、「柔らかいものばかり食べている」等、些細な兆候から始まる「虚弱の状態」を示す。多くの人が健康な状態からこのフレイルの段階を経て、要介護状態になると考えられている。

 

 「超高齢社会はお年寄り中心の社会ということではありません」と神谷研究員。「地域には子育て世代も子どもたちも住んでいます。子どもたちが祖父母に『おじいちゃん、フレイルになっちゃだめだよ』という会話が日常的にできるような社会を作らなければなりません。」そこで注目されるのが地域ぐるみでのフレイル予防だ。介護とは無縁の人々を対象とした健康づくりとして位置付けられている。キャッチフレーズは「フレイル予防で百歳まで生き抜く!」だ。

市民の手による健康調査

 柏市は平成24年、東京大学高齢社会総合研究機構(飯島勝矢教授)の「どの様にして人は老いるのか」の研究テーマのもと、市内高齢者を対象に血液や口腔機能、筋肉量、認知機能等の研究調査を行った。結果、「栄養」と「運動」と「社会参加」が健康生活に不可欠と結論付けた。これを「柏スタディ」と呼んでいる。

 

 本調査では市民ボランティアがサポーターとして協力。3年間従事した結果、自らの手で高齢者の健康チェックをマニュアル通りに行えるようになった。そしてサポーターの間で、自らが柏市民の健康を支える仕組みを作りたいとの機運が生まれていく。飯島教授始めスタッフ一同はその要望に応え、サポーターによるフレイルチェックプログラムを開発した。

当初、プログラムは予算化されなかったが、サポーターがボランティアとして引き受けたために実施できたという。その後、市は介護予防事業として、フレイル予防の人材育成事業を予算化。東京大学高齢社会総合研究機構の協力で「かしわフレイル予防サポーター養成講座」が行われることになった。

 

柏市フレイルサポーター
柏市フレイルサポーター

 養成講座は、60歳以上の元気高齢者が対象だ。これには、サポーター自らが生きがいを持った担い手になってもらう狙いがある。現在、第6期生までが修了し、107名(平成30年7月現在)が登録。毎月、市内いずれかの地域で行われているフレイルチェック講座に交替で従事することで、年間約1000人のフレイルチェックを行う体制が整っている。

フレイルチェック講座

 実際の講座はどのような内容か。当日会場に訪れたのは61歳~85歳の13名。進行役を務めるフレイルサポーター1期生の松本さんが、事前説明をし、チェックがスタートする。

 最初の「指輪っかテスト」では、両手の親指と人さし指で輪を作り、ふくらはぎを囲む。用紙に青と赤のシールが用意されており、輪っかで囲めない場合や、ぴったり囲める場合には青いシールを、隙間ができてしまう場合は赤いシールを貼る。ふくらはぎが細く隙間ができてしまう人ほどフレイルの度合いが進んでいるという。

 次の「イレブンチェック」では、「栄養」、「口腔」、「運動」、「社会性・こころ」の4分野11項目について、当てはまるかどうかを5段階で答える。「お茶や汁物でむせることがありますか」、「昨年と比べて外出の回数は減っていますか」等、11項目の質問に、青と赤のシールを貼って答える。ここでも、赤の数とフレイルの度合は比例する傾向を示すという。健康な状態に近づく動機付けをするのに、誰にでもわかりやすい赤と青のシールは有効だ。

  最後の「深掘りチェック」では、「滑舌(言葉を明確に発音する口や舌の動き)」、「握力や体組成計を使った筋肉量の確認」、さらに「社会参加の度合い」を調査する。滑舌では「パ」「タ」「カ」を1秒間に何回発音できるかを、筋肉量では、座位で腕を前に組み片足で立ち上がることができるか等のチェックが行われた。

活舌のチェック
活舌のチェック
ふくらはぎのチェック
ふくらはぎのチェック
体組成計を使った筋肉量の確認
体組成計を使った筋肉量の確認

 チェック後は「筋肉を作る食べ物」やウォーキングの方法、ボランティア活動や地域サロンへの参加等のアドバイスが行われ、2時間のプログラムが終了した。

関係者インタビュー

 フレイルチェックの発祥地であり、手本として全国からの視察が絶えない柏市。推進の原動力は何か。フレイル予防プログラムを運営する当事者たちに、それぞれの立場から意見を伺った。

髙木貴子さん

(保健福祉部地域包括支援課)

◎サポーターのモチベーションについてお聞かせください。

 定期的に研修を行っています。また、連絡会を発足し、自主勉強会を実施いただいています。連絡会のおかげで全員が顔を合わせる機会が増え、コミュニケーションが活発化し、雰囲気もよくなったと感じています。

◎アンケート結果について特筆すべき点は?

 「地域への想いがより強くなった」という意見が6割以上でした。柏市はフレイル予防をまちづくりの一環として捉えていることから、地域貢献の意識が高くなったことに事業の成果を見出しています。

◎フレイル予防事業の職員への効果は何でしょうか?

 本事業のおかげで保健所やスポーツ課、地域づくり推進部等で別々に推進していた事業を整理し、3つの柱である「栄養」、「運動」、「社会参画」のもと、一体的に取り組めるようになりました。職員にとってもわかりやすくなり、やりがいを感じています。

松本茂さん

(フレイル予防サポーター)

◎サポーターになった動機についてお聞かせください。

 自分の健康のために始めたことですが、今では地域の健康づくりをサポートできることに生きがいを感じています。自分事で考え、それを地域に広げているといった感じです。

◎行政への要望は何でしょうか?

 参加者には継続的に参加してもらい、前回と比較したデータを示せればさらによいと思います。また、当事業の成果、例えば健康寿命や医療費削減への影響等を「見える化」できると我々のモチベーションもさらに上がるはずです。

渡辺良明さん

(理学療法士)

◎ボランティア活動との両立についてお聞かせください。

 ケアマネや老人ホームの経営、理学療法士の仕事の傍ら、空き時間を見つけてボランティアをしています。顔見知りがだんだん増えるのが楽しいですね。仲間同士で勉強したり測定の練習をしたり、東京大学の飯島教授の講演を聞くことで切磋琢磨しています。現在、フレイル予防トレーナー(フレイル予防サポーターを養成する専門家)の資格を取得中で、今後はサポーターと共にトレーナーの数を増やすことにも貢献したいですね。

◎フレイルチェック後のアドバイスとは?

 リスクが高い人には、まず包括支援センターにつなげる必要があります。そこで「もっとおしゃべりした方がいいですよ」と判断されれば地域サロンを、治療が必要と判断されれば通所リハビリテーションをといった、その人に合った方法を紹介しています。やりっ放しではなく、次のステップを踏むことが大切です。