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SDGsと健康都市づくりセミナー

会場風景
会場風景

 高齢化が急速に進む日本にとって、SDGsに向けた最重要課題の一つが「健康寿命の延伸」であり、特に健康無関心層への対策が急務だ。本セミナーでは、SDGsと健康都市を踏まえた上で、厚生労働省や岡山市の担当者から政策や事業計画を発表いただいた。

日付:2019年1月24日(木)

会場:東京ビッグサイト 会議棟

講演者:藤岡 雅美氏(厚生労働省健康局健康課課長補佐)

    野村 晋氏(岡山市保健福祉局次長)  

    松岡 克朗氏(岡山市保健福祉局保健福祉企画総務課)

コーディネーター:中村 桂子氏(東京医科歯科大学大学院教授)

主催:UBMジャパン株式会社     

企画協力:認定NPO法人健康都市活動支援機構

持続可能な開発目標(SDGs)と健康都市

中村 桂子氏(東京医科歯科大学大学院教授)

 

 SDGsで健康と関連するのは「目標3:すべての人に健康と福祉を」だが、SDGsでは質の高い教育や経済成長、環境対策、パートナーシップといったその他16の目標と関連付けながら推進する。生活習慣病予防を例に取ると、子どもや地域住民への食育や生涯教育が関係する。まちづくりでは、公園が整備されていて運動しやすいとか、健康な食品を販売する商店へのアクセスがよいといった点がある。また、医療機関単体ではなく、職場や地域団体とパートナーシップを組んで予防や治療に取組むことも重要だ。SDGsの考え方は、世界保健機関(WHO)が30年ほど前に提唱した健康都市と重なる。SDGs同様、健康都市も包括的であると同時に、パートナーシップを重視している。世界ではすでに3000を超える都市が取組んでおり、SDGsを取り入れて健康都市を進化させる試みも始まっている。

 

 例えば愛知県尾張旭市では、健康都市の包括的なプログラムにSDGsを紐づけし、SDGsと照らし合わせた進捗状況を「見える化」している。市民にもわかりやすく伝えるために健康手帳を配布し、歩数チェックや教育講座、自治体活動やスケジュール等、いろいろなコンテンツを関連付けている。

海外では、オーストラリア・ニューサウスウェールズ州のイラワラ地域が、まちぐるみで子どもたちを育てる「朝食プログラム」で健康都市に取組んでいる。ボランティアと子どもたちが地域のコミュニティセンターで栄養の偏りのない食事を作るプログラムで、貧困家庭への支援とともに、健康づくりや食育、地域連携といったSDGsが関連している。

 

 

 健康都市づくりでは、17の目標すべてに気を配りながら地域住民すべてが健康に暮らせるような仕組みづくりをする。まず17の目標に対してどのような取組みがあるのか、どこが欠けているのかをチェックすることから始める。その次に進捗を測る。自治体ごとに目標や推進方法が異なるため測り方は一律ではないが、そのためのツールを開発することが大切だ。同時に持続可能な産業を育成することも不可欠だ。地域経済が成り立たなくては、そもそも健康は成り立たない。このようにWHOの健康都市は、17の目標すべてと関係する活動を通じて人と環境と経済の健康が持続可能に循環することを目指している。

健康寿命のさらなる延伸に向けて

藤岡 雅美氏(厚生労働省健康局健康課課長補佐)

 

 個人の幸せは、かつては経済成長が大きく影響していた。ただし、経済の成熟とともに、人との繋がりや健康寿命の長さなど、影響する因子は多様化している。国や自治体は地域経済を底上げするだけでなく、人々の多様な要望、特に健康に対応することが重要だ。そうした健康政策において、厚生労働省は1980年の「第一次健康づくり運動」、2003年の「健康増進法」とそれに基づく「健康日本21」(第1次と第2次)を推進しており、現在は2023年以降の健康づくり運動の計画を議論している。また、「2040年を展望した社会保障・働き方改革本部」を省内に立ち上げ、現役世代の急減が見込まれる2040年を見据えた検討を開始している。改革案の柱は「健康寿命の延伸」、「医療・福祉サービス改革」、「高齢者雇用、地域共生」などの4分野だ。

 

 健康寿命の延伸に向けては、従前より様々な施策に取り組んでいるところだが、効果が限定的になってきているものがあることも否定できない。そこで新たな手法として「自然に健康になる社会」と「行動変容を促す仕掛け」の導入を検討している。

 

 「自然に健康になる社会」とは、健康な食事や運動ができる環境整備や、居場所づくり、社会参加の推進による役割の付与等、その地域で生活しているだけで健康を意識しなくても健康になれる社会環境だ。一方の「行動変容を促す仕掛け」では、ナッジ理論等、行動経済学的な理論の活用が検討されている。行動を強制したりすることなく、「ヒジで軽く相手をつつくように」行動を変える理論だ。

 

 公衆衛生は大衆の健康を保持・増進させるために公私の機関によって行われる組織的な衛生活動や環境づくりが学問体系になっている。一方の行動経済学は、「個人が必ずしも経済的合理性のみに基づいては行動するわけではない」として、個人を単位としたアプローチを取る。この二つを組合わせることが有効ではないかとういうことだ。例えばビュッフェ。サラダと主食の配置を変えるだけで食事が変わることが実験データで明らかになっている。客の75%が最初に目に入った食べ物を取り、食べた料理の66%が最初の3品で占められているという。野菜を最初に目につく場所に配置することが、健康を促す社会環境につながる可能性がある。

 

 最近、公衆衛生の動向として「パブリックヘルス 3.0」が提唱されている。地方自治体が中心となり、まちづくりのあらゆる施策に健康を位置付ける取組みだ。まさに健康都市の概念そのものであり、厚生労働省としても、「自然に健康になれる社会」の構築を通して政策を検討している。

誰もが健康で学び合い生涯活躍するまちおかやまの推進 ① 概要について

松岡 克朗氏(岡山市保健福祉局保健福祉企画総務課)

 

 岡山市は2019年度の「SDGs未来都市」に選定された。健康をメインテーマに掲げているのは29市のうち当市だけで、3つの背景がある。1つめがヒトの問題だ。生活習慣病にかかる一人当たりの医療費は65歳以上から全国を上回っている。若い頃からの生活習慣、運動不足や食生活の乱れが65歳以上の疾病や医療費になって表れていると分析している。2つめがカネの問題だ。当市には医療資源が多く受診しやすい環境が整っている反面、受診しやすいことから、1人当たりの医療費が政令市の平均よりも1割くらい高く、年々増加傾向にある。3つめがマチの問題だ。通勤・通学における交通手段分担率の政令市比較を見ると、当市では公共交通機関の利用率が低く、自家用車を使う率が高いことがわかる。まちづくりで「自然に健康になれる社会」ができておらず、市民の運動習慣が継続しにくくなっているのが現状だ。

 

 こうした背景を踏まえ、健康をターゲットにしたサスティナブルなまちづくりの推進を進めることが当市の方向となっている。また、SDGsでは環境、社会、経済の側面でのインパクトを重視していることから、当市では経済の視点も踏まえながら健康をターゲットにしている。主な事業は次の4つである。

 

①ソーシャルインパクトボンド(SIB)を活用した健康ポイント事業

②AIを活用した健康見える化事業

③SIBを活用した生涯活躍就労支援事業

④ICTを活用した小児遠隔健康医療相談事業

誰もが健康で学び合い生涯活躍するまちおかやまの推進 ② 個別事業について

野村 晋氏(岡山市保健福祉局次長)

 

 個別事業の計画として、SIBを活用した健康ポイント事業について報告する。SIBとは、民間資金を活用して社会課題解決型の事業を実施し、その事業成果を支払いの原資とする仕組みだ。行政が成果報酬型の委託事業を実施し、それに対して民間から資金調達を得る仕組みであり、税や保険料とは異なる企業からの資金調達としての新たな財源となる。

 

 中身は健康ポイントを付加する仕組みだ。ただし、ウォーキングに対してだけではない。フィットネスや栄養に配慮した飲食店での食事等もポイント付与の対象となる。35歳以上の市民及び在勤者を対象に「企業枠」と「一般市民枠」で1万5千人を募集する。「企業枠」を設けるのは、従業員の健康に意識を持って健康づくりへの取組みを促進するように促すためだ。参加企業には福利厚生費の一部補助等のインセンティブが付与される。

 

 お金の流れとしては、企業から50万円以上、市民からは一口2~3万円で約3千万円を目標に資金調達を行う。民間資金を受けるのは中間支援組織だ。ここが中核となり事業の意思決定機関である事業運営会議を運営する。会議に参加するのは、出資者であり積極的に事業に関わるサービス提供者で、運動や栄養、食生活のメニューを開発してもらう。岡山市内で食事をしようと飲食店に入ると何らかの健康メニューがある、そうしたことを目指している。社会参加では、カルチャースクール等が対象になる。外出してもらうことが健康に役立つためだ。中間支援組織が受けた民間資金は、サービス提供者に事業計画に則って配分し、事業を実施する。市は中間支援組織に、BMIの改善状況等の成果に連動した予算を執行し、一方の中間支援組織は出資者に元本償還や配当分配を行う。

 

 この仕組みの特徴は事業参加者にもメリットがあることだ。従業員が取組むことでポイントを貯めることができるし、企業には配当が入る。さらに福利厚生費の一部補助を受けることもできる。今回のSIBは健康増進を指標に掲げているので収益には着目しておらず、極端に言うと、企業が赤字であっても、配当を受取ることができる。SIBの仕組みがSDGsやESGの投資の議論に繋がるのは、社会的課題を収益至上主義になることなく企業と解決できるからだ。