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地域包括ケアのDXをめざして ~AIやICTを活用した在宅医療介護プラットフォーム~

鹿野 佑介氏
鹿野 佑介氏

株式会社ウェルモは、企業理念「あたりまえの幸せを、すべての人へ」のもと、介護の地域資源情報を集約するプラットフォーム事業やAIによるケアプラン作成支援システムによりケアを進化させている。介護とITで存在感を高める代表取締役CEOの鹿野佑介氏に業界の課題や会社設立の経緯、事業内容について話を伺った。

ITコンサルタントから介護業界での起業

「介護業界の離職率の高さを知ったことが起業のきっかけです」と鹿野氏は切り出す。大企業向けに財務・人事・給与の基幹システムを開発する企業のITコンサルタントとして多忙な日々を送る中、顧客の一つだった従業員数万人を擁する介護会社の課題に直面した。それが離職率の高さだ。「中小企業はもっと酷い」と聞き訪問した老人ホームでは、年間離職率が60%を超えていた。「大きなショックでした。」

 

高齢者にとって、毎年担当者が入れ替わることは望ましくないはずだ。調べてみると、多くの中小介護事業者には研修制度や人事考課はおろか、人事部門が無かった。「これでは職員が辞めてしまうのは無理もありません。」

 

鹿野氏は「IT業界と介護の現場は真逆」と振り返る。便利だが、効率化を求めるあまり無機質な印象が拭えない情報化社会の一翼を担っていたのがIT業界だ。資本主義的で数値化される価値に重点が置かれ、心の豊かさが失われつつあると感じていた。

一方の介護業界はIT化が進んでおらず、アナログな手段による情報収集で体力、精神的負担を強いられている状態だった。IT化の後れから情報が不足し、効率性や公平性が欠けていた。その中で際立つのが豊かな対人関係だ。現在社会では失われつつある人間同士の心の繋がりが介護の現場では溢れていることに心を奪われた。「介護の現場に日本の社会問題解決の鍵があるとさえ思いました。」

起業と情報プラットフォームの開発

介護にITを役立てようと会社を辞めたものの経験や知識は無い。そこで8か月間にわたり、全国400法人を超える介護事業所でボランティアやインタビューを実施。業界が抱える構造的な問題や離職率の高さの原因を突き止めていった。

 

大きな問題の一つが情報不足だった。ケアマネジャーと利用者にとって、地域のどこに事業所があり、どのようなサービスがあるのかわかりにくい。事業者がパンフレットを発行していても、保管は手間だし複数を見比べるのは困難だ。予算不足で情報発信できない事業所もある。

 

課題解決に向け、鹿野氏は2013年に株式会社ウェルモを創業。まずは福岡市を起点に、介護事業所向けに情報プラットフォームの提供を開始した。その過程は苦難の連続だったという。介護現場の人たちはITが得意な人が少なく、感情的にも好きではない人が多い。現場訪問でまともに話を聞いてくれることは少なかった。心の支えにしたのが「百折不撓」と「利他の精神」だ。前者は、何度くじけても志をまげないことを意味する。「ITの力を信じていた」と鹿野氏。人類の進歩は、技術や道具の進化で成し遂げられてきた。食わず嫌いなだけで、興味を持ってもらえさえすれば、理解が広まるはずと奮闘した。

 

開発にこぎ着けたのが「ミルモネット」だ。事業者とケアマネジャー、ソーシャルワーカー、行政等を繋ぐ無料のウェブプラットフォームで、地図による事業所検索や提供される保険適用内外のサービスなどを一覧できる。事業者に無料でアカウントを提供する理由は、介護保険制度下で働く専門職がプラットフォームを使うためには、データに公共性と公平性が担保されなければならないからだ。

 

だが、全国の事業所を掲載するといっても、一軒一軒訪問しデータ入力するコストは莫大だ。そこで介護事業者自らが入力できるプラットフォームにし、地域の勉強会や協議会、連絡会といった団体と連携することで効率的かつ間接的に募集する戦略を取った。その結果、横浜市から対象事業者約4千への発信を通して登録促進を支援してもらう等、自治体レベル、地域レベルでの連携を張り巡らせながら賛同する協力者や事業者を増やしていくことができた。

 

「ミルモネット」の画面
「ミルモネット」の画面

2021年6月にはミルモネットユーザー事業所数が1万件に到達、2022年3月には2万件を超える見込みだ。その他、データベース内に掲載されている事業者数は、総数で15万件におよぶ。

 

 

大きく貢献したのがスマホの所有率だ。2016年あたりから急上昇したことでラインの利用者が増え、タブレットをもって仕事をするケアマネジャーも登場した。一方で紙媒体を必要とする事業者や利用者には、紙バージョンの「ミルモブック」を発行し「ミルモネット」とQRコードで繋いだ。先進的なユーザーがデジタルを使いこなす一方で、そうではないユーザーがデジタルとアナログのハイブリッドを活用する流れができてユーザーが広がっていった。

「ミルモブック」
「ミルモブック」

ケアプラン作成支援システム「ミルモぷらん」

プラットフォームを展開していく過程で、在宅介護の要となるケアマネジャーに求められる知識やスキルが、非常に深く広いことが分かってきた。これらを忙しい日々の中で、研修等で習得していくことは不可能に近く、抜本的なアプローチの変更が必要であることは明らかだった。専門職には熱い方々が多いのだが、気合と根性だけでは太刀打ちできない。長く続かず燃え尽きてしまう人も多い。

 

そこで考えたのが、ケアプラン作成に必要な知識や経験の差を補完する手段として、AIを活用することだ。同プランでは利用者一人ひとりに合うサービスの種類や内容、回数、料金など多くの項目を網羅しなければならず、経験豊かなケアマネジャーにとっても作業負担が重い。幅広い知識や情報が必要な上、個々の利用者の身体状況や家庭環境を反映させねばならず、パターン化できないためだ。技術・法制度が頻繁に更新されることも作業を困難にしている。

 

さらに、利用者の何をプライオリティにするのか、ケアマネジャーの経験値により異なる課題もある。実際、いろいろなケアプランを読むと「この人は看護師、この人は理学療法士、この人は介護福祉士」だとわかるという。「利用者はケアマネジャーを選べないため、運に任せることになってしまいます。我々の目標は、どのケアマネジャーに委ねても判断基準に差が無いようにすることでした。」

 

「ミルモぷらん」はそうした課題解決のためのクラウドサービスだ。特徴はアセスメントに応じてAIの自然言語処理技術が自動的に文章を一言一句生成することで、特に労力を要する「ケアプラン第2表」の作成に効果を発揮する。

 

ケアマネジャーは項目ごとに提案される選択肢の中から利用者に最も適した内容を選び、個々の特性などを踏まえて加筆・修正でき、どのように記載しても、AIが文章を解析。課題や目標設定の観点を漏らすことなく、ケアプランを仕上げていくサポートを行う。これによって、ケアマネジャーが有する資格や経験、知識量に依存することのないケアプラン作成を目指す。同時に作成時間を短縮できるため、本来必要な利用者とのコミュニケーションに時間を充て、よりきめ細やかなサービスを提供できる。

 

「ミルモぷらん」の画面 医療知識
「ミルモぷらん」の画面 医療知識
「ミルモぷらん」の画面 第二表
「ミルモぷらん」の画面 第二表

鹿野氏は「優れたAIを開発するには、AIに学ばせる『教師データ』が特に重要」と語る。過去のケアプランの中には妥当性が低いものが含まれるため、全てを機械学習として学ばせると適切でない答えを出してしまうためだ。そのため、同社では医療や介護分野の有識者で数十万に及ぶデータを目視で精査している。ただし学習には多様性が必要なので「正しいものを入れる」というよりも「適切でないものを省く」スタンスだ。

 

 

要介護度の維持・改善、重度化防止はAIの一つの目的だが、一方でその人にとっての幸せも重視している。人によっては「これ以上リハビリはきつい」と感じるかもしれないためだ。「本人にとってのQOLを尊重し、そのための最適解をどのようなケアマネジャーでも当たり外れなく導けるシステムを目指しています。」

非収益事業を収益事業で支える

同社は自らをソーシャルベンチャーと位置づけ、非収益事業と収益事業を明確に分けている。営利目的ではない立ち位置で提供するのが無償の「ミルモネット」だ。一方の収益事業としては「ミルモぷらん」のほか、介護事業をサポートするための人事支援事業「ミルモわーく」や「ミルモセレクション」といったビジネスを展開している。「人材サービスでは、データベースにより事業者と求職者をベストマッチできる強みがあります。一方の『ミルモセレクション』では、介護事業所の困りごとを解決するシステムや介護ロボットの導入を支援するとともに購買を代行しています。」

 

最近では、大企業とのアライアンスも増えている。拡大する市場に既存技術や製品を投入したくても、ノウハウを持たない企業が多いためだ。介護とテクノロジーの両方に精通し、オープンイノベーションを掲げる同社にとって、市場との橋渡しや新規事業開発は自然の成り行きだ。例えば、東京電力パワーグリッド株式会社とは独居高齢者の生活リズムを、プライバシーを守りながら把握できるシステムの開発を進めている。分電盤にセンサーを設置し、AIで電流波形を分析する仕組みだ。どの家電が何時に使われたのかをタイムラインで出し、どのような生活をしているのか、カメラを使わずに把握できるようにしている。

東京電力パワーグリッドとの製品開発の概念図
東京電力パワーグリッドとの製品開発の概念図

社員に求める価値観

同社の目的は、地域包括ケアDXの分野で社会のインフラになることだ。そのためには事業を成長させねばならない。何よりも重要なのが人材であり、資質として重視するのが仕事への感情や共感という。「学歴やすごいキャリアは求めていません」と鹿野氏。合言葉が「仕事はしても業務はするな」だ。「感情や魂を込めるのが『仕事』で、ライフワークとしてのコミットメントを伴います。一方の『業務』はただ捌くだけの作業に過ぎません。」

 

組織としては、「社員が歯車化しその人の本当の姿が見えない」「考えていることがわからない」といった体質を否定し、一人ひとりの個性を大切にする文化を育んでいる。「社会課題を自分事と捉え、皆でそれらの解決に取り組むことを目指しています。」

 

社員の年齢層は23歳から60歳まで幅広い。スタートアップ企業において若い人材は重要だ。だが、介護に対する当事者意識はどうしても薄くなる。一方の年長者には、家族の介護等、社会課題に向き合った経験がある。「年齢はあまり気にしていません。会社の理念に向き合い一緒に成長できる人材を採用していったら今の社員構成になってしまいました。」

 

2025年には全人口の2割弱が75歳以上という超高齢化社会が到来する。今の社員数は150人だが、1000人、2000人へと加速度的に増やす構想を抱く。「ITの力と介護現場の思いやりやホスピタリティ、寄り添う気持ちをハイブリッドさせ、一丸となってケアを進化させるのが我々のミッションです。」

幅広い年齢層のメンバー
幅広い年齢層のメンバー

鹿野 佑介(かの ゆうすけ)氏

 

株式会社ウェルモ代表取締役CEO。

一般社団法人日本ケアテック協会 代表理事

東京大学 高齢社会総合研究機構 共同研究員

 

大阪府豊中市出身。ワークスアプリケーションズの人事領域(現:株式会社Works Human Intelligence)にてITコンサルタントとして勤務後、東証一部上場企業人事部へ。その後8か月間にわたり、仙台から福岡まで、約400法人超の介護事業所にてボランティアやインタビューを実施し、福祉現場の働きがいに課題を感じて2013年ウェルモを創業。 厚生労働省、経済産業省、総務省、文部科学省等にて講師を務める。Forbes JAPAN 2018 NEW INNOVATOR 日本の担い手99選出。経済産業省主催ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト2019にて最多受賞。