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持続可能な地域密着型病院に向けて ~社会医療法人松藤会 入江病院の経営戦略~

本稿では、姫路市で2022年に開院50周年を迎える社会医療法人松藤会入江病院を取材した。機能転換や体制構築、患者数の確保や業務効率化など、経営と改革を成功に導くさまざまな要因について、同法人の常務理事入江興四郎氏にインタビューした。

医療提供体制の改革に伴い、国は2017年に地域医療構想を打ち出した。必要病床数を機能別に割り出し、現在の病床数とのギャップを2025年を目標に解消するもので、都道府県は地域の実情に応じて、急性期病床の削減や回復期病床の充実など病床の機能分化・連携を進めている。

 

改革は公立・公的病院に限らない。全病院の8割を占める民間病院を含むすべてが対象となる。課題は、経営と改革の両立だ。しかし、民間病院1施設当たりの利益率はマイナス6.9%の赤字で、前年度比3.8ポイント悪化した。(厚生労働省の2020年度医療経済実態調査)

 

では、課題解決に向けて実績を上げている民間病院はどのように対応しているのか。本稿では、姫路市で2022年に開院50周年を迎える社会医療法人松藤会入江病院を取材した。機能転換や体制構築、患者数の確保や業務効率化など、経営と改革を成功に導くさまざまな要因について、同法人の常務理事入江興四郎氏にインタビューした。

まずは設立の経緯と背景についてお聞かせください。

当院は1972年に父、入江善一氏(現会長)が開院しました。父は戦中・戦後に京都で少年期を過ごし、中学卒業後は商社に勤務しました。仕事の傍ら定時制高校に進学、苦学して京都大学医学部に入学しました。卒業後は勤務医を経て40歳で当院を開院しています。現在地に病院を建てたのは「この地域に病院が無く、地域医療に根ざした病院を開設して欲しい」と住民から懇願されたためです。以来、英賀保に根を下ろし、要望に応えるために昼夜を問わず診療に明け暮れています。

 

会長の専門は消化器外科ですが、当時は専門分化させておらず、整形外科、脳外科、産科など何でも手掛けました。他の病院で診てもらえない患者を引き受けたり、診療報酬の点数になっていない段階でも、要望があれば人工透析やリハビリを始めてしまう。患者や家族の気持ちに応えるために努力を惜しまない医師として慕われていました。今年90歳になる今も元気で患者を診ており、「会長でなければ」という親子でのファンも多いです。

 

昭和は診療報酬が右肩上がりに増え、増床すれば利益が上がる時代でした。「医療に専念すれば利益はついてくる」が暗黙の了解で、経営の概念は薄かったと聞いています。ところが1981年には医療費適正化政策が実施され、医療にも経営が必要な時代が到来しました。1996年以降は何度も診療報酬が見直され、放漫経営の病院が倒産や診療所に縮小することが散見されるようになっています。

入江常務は異色の経歴と聞いています。

私は現在50歳ですが、経理専門学校を卒業後、当院に入職する26歳まではサッカーのプロコーチになることを目指しながら、さまざまな職業に就いていました。会計事務所、羽毛布団の営業、スーパー、コンビニ、鳶職、テレビ工場(東芝)といった具合です。現在も園児から社会人が参加するサッカークラブに所属し、ボランティアでコーチをしています。私が所属するクラブの社会人チームはアマチュアで日本一に輝いたことがあり、プロ選手も数名排出しています。

 

私が入職したきっかけは、生まれて初めて父に頭を下げられたからです。当院の増改築工事をするので、まずは設計事務所や建築会社に交渉、調整する立場を担当して欲しいという内容でした。父のためにも、自分の夢は横に置いて頑張ろうと思いました。当時は叔父が事務長をしており、私の役職は事務長補佐でした。

 

入職して2年間は当院の増改築工事、次の1年間はサービス付き高齢者向け住宅の新築工事を担当しました。増改築工事では、職員からいろいろな要望を受けました。個室の増床、ナースステーションの拡大、収納スペースの増設、職員休憩室の設置などといったものです。ところがすべてを叶えることは難しい。患者優先の会長が、職員向けの要望に難色を示しましたこともあります。両者の板挟みになりながら優先順位を決め、達成できないことをどうやって理解してもらうのか、大変苦労しました。一方、この業務のお陰で職員と信頼関係を築くことができたのも事実です。実は、今に続く良好な人間関係はサッカーの賜物でもあります。院内外において、サッカー人脈で築いた先輩や同僚、教え子といった方々に支えられています。

当時の経営状況はどうだったのでしょうか?

大きな課題は資金繰りでした。私が入職した当時から厳しかったのですが、さらに甘い計画のもとに増改築工事をしたため、資金繰りは逼迫していました。父は医療一筋。財務には無頓着で、経営は事務長任せでした。そうした中、事務長が急に退職することになり、バタバタするうち1年後には私が事務長になることになりました。若干29歳、病院経営の素人ですから大変です。教えてくれる人もいません。とにかくやるしかないと腹をくくり、夜中の2時まで仕事をして朝5時に起床する毎日でした。過度の寝不足状態でしたが日々医療現場で起こる問題も処理しなければならない。とうとう肝臓が悲鳴をあげ、私を診察した会長から「このまま続けたら死ぬぞ」と言われました。しかし病院を倒産させるわけにもいかないので、毎日点滴をしながら仕事を続けました。

新事務長として、どのような体制を整備したのでしょうか?

一般的に病院の事務長は「何でも屋」です。企業出身者なら「これは事務長の仕事じゃないだろう」と思うような業務でも、「適当な人材がいない」「部下にやらせるより自分でやった方が早い」という考えで、中長期で重要な課題を後回しにすることが多いと思います。また、病院職員は専門職が多いため、自分の範疇ではないと思う業務は事務職に依頼する傾向が強く、最終的には事務長が忙殺されることになる。病院運営の要である事務長がそのような状態では、重要課題が遅々として進みません。

ある時に「日本の先頭集団を走っている病院は、なぜ医療と経営がうまく機能しているのか?」という疑問が湧いたので調べてみると「先頭集団の病院は事務部門のレベルが高い」「病院の事務部以外に法人全体を統括する部門があり、その部門が法人運営のカギを握っている」という事実を掴みました。そこで立案したのが「法人事務局」の発足です。2010年1月から組織を立ち上げ、病院事務長の業務を「法人事務局の役割」と「病院事務部長の役割」に分けました。もしも私一人で事務長を続けていれば、当院は間違いなく現在の状況になっていないと断言します。

現在の病院はどのような環境下にあり、どのように対応しているのでしょうか?

当院は姫路市(人口52万人)の南西部に位置しています。姫路市には大学病院や市民病院は無く、国立、県立、赤十字と社会医療法人が運営する病院(3病院)、民間病院(27病院)があります。当院を中心に半径3㎞圏内は人口8万人で、その地域の医療・介護をいかに支えるかが使命です。3㎞圏内の病床数は合計1123床で、そのうち高度急性期病床と急性期病床を合わせると899床となり、病床数合計の80%を占めています。姫路市の高齢化率は2020年に27%、2040年には32%になることから、回復期(地域包括ケア病棟・回復期リハビリテーション病棟)や慢性期(医療療養病棟)の病床が不足していることは明らかです。

 

当院としては、急性期から慢性期までの幅広い状況に対応しなければなりません。そこでケアミックス病棟を導入し、病床数199床をDPC急性期52床(※)、地域包括ケア42床、回復期リハビリテーション50床、医療療養55床に機能分化しました。特徴は、一つの病院で救急及び急性期治療、手術後のケア、リハビリ、長期療養、そして在宅医療に至るまで、一貫して患者の状態・状況に合った医療サービスを提供できることです。また、大病院で治療を終えた患者が在宅復帰を目指すための集中的なリハビリを提供したり、在宅医療を受けている患者が一時的に入院することもできます。

 

診療科目では総合診療科を設けました。特定の臓器や疾患に限定せず多角的に診療を行う部門で、「全人的医療」とも呼ばれています。発熱や腹痛や肺炎など、日常的にある健康問題に対して何でも相談にのってくれる総合的な医療です。当院は地域密着型病院で、受診者の中心は高齢者です。患者は複数の疾患を持ち合わせていることが多いので、全人的医療の提供が必須となります。

 

患者にとっても、「せっかく病院に来たのだから身体状況すべてを診てもらいたい」との希望があるはずです。当院はそうした疾患に対して精密な検査体制を整えており、さらに専門性の高い処置や知識が必要な症例については、院内の臓器別専門医や近隣高度専門施設に委ねています。

 

総合診療医がチームとして機能することで、専門性の高い臓器別専門医は自身の専門性を十二分に発揮することができます。同時に総合診療医が全人的アプローチをすることで、これまで生じていた「臓器別専門医間の隙間」を埋めることも可能です。

2020年1月には、「社会医療法人」に認可されましたね。

社会医療法人とは、これまで自治体病院や大病院などが中心に行ってきた5事業(救急医療、小児医療、災害時医療、へき地医療、周産期医療)について、新たな担い手として専門的な医療を提供することを認められた法人です。当院は「救急医療」の分野で継続的に地域の医療提供体制を担ってきた実績が評価され、認可に至りました。

 

社会医療法人制度のきっかけは、夕張市の行政破綻に伴う夕張市民病院の閉鎖です。2007年の第5次医療法改正で公立病院改革が進む中、民間の高い活力を活かしながら地域住民にとって不可欠な救急医療等を担う公益性の高い医療法人として制度化されました。

 

社会医療法人は営利を目的としない公益性の高い医療法人です。自治体病院の機能の一部を担い、地域医療を支えることが求められます。法人税と固定資産税が免除になるメリットがありますが、認可取得は大変難しく、当院は10年もかかりました。社会医療法人として継続していくには、救急医療などの5事業の実績基準を満たすこと、社員・役員等における親族の割合が3分の1以下、監査法人の監査を受けることなど厳格な非営利性・公共性が要請されており、一般の医療法人よりも透明性の高い運営が求められます。

過去5年間、経営は黒字を計上されています。

集患、稼働率や入院単価を上げる前提として「やりたい医療や介護」を追求するのではなく、「求められている医療や介護」を追求し、「地域で不足している医療や介護」を見定め、不足している医療や介護の中で当法人ができることを提供するように考えています。その考えのもとで医療・介護を提供した職員の頑張りのお陰で経営が黒字になっています。

 

例えば、高齢者救急の受入れ強化にあたっては、高齢者救急がたらい回しになっていた事情がありました。糖尿病専門外来の開設にあたっては、姫路市に糖尿病内科の常勤医師が非常に少ない状況があった。診療所の医師や地域包括支援センターが受け入れきれない軽度入院患者に対しては、「サポート入院」という独自のサービスを始めました。また、介護施設や介護事業所が困っている病院受診時の待ち時間の長さに対しては、当院受診の際に、外来での待ち時間を短くする工夫をしています。

 

そうした対応により救急搬送患者数が以前は年間800~900件でしたが、現在は年間2000件以上を受入れています。消化器外科と整形外科の年間手術数はそれぞれ年間200件ほどです。診療所との連携では紹介患者が増えたことに加え、介護との連携では、当院から半径7㎞圏内の140の介護施設や介護事業所との連携強化が進んでいます。

一方の経費削減と業務の効率化についてはいかがでしょうか?

病院経営で人件費の次に大きな割合を占めるのが材料費です。当院では、多数あった仕入先を集約し、スケールメリットによるコストダウンを図っています。その中でも同じ材料は必ず相見積もりを取り、安い仕入先から買うようにしています。これにより、以前と比べて年間3千万円以上の経費を削減することができました。医薬品情報データベースの導入も無駄やコストの削減に貢献しています。

 

業務効率の向上では、2017年10月に法人全体で電子カルテを導入しました。 老人保健施設、訪問看護、居宅介護支援事業所と結んだことで、病院から介護施設、または介護施設から病院へ移る患者情報を迅速に共有し適切な処置を施すことができています。

広報も積極的に行っていますね。

地域向けと同時に、院内向けでもあります。医療従事者は基本的に真面目でよいのですが、仕事に集中し過ぎて内向けになる傾向がある。広報には、そうした意識を地域社会にも向ける効果があります。「救急搬送患者数の受入れ増加がいかに地域医療に大きく貢献しているのか」「地域にとって当院の役割がどれだけ大きいのか」などを発信し続けた結果、今までは「医療従事者として地域にどれだけ貢献しているのか」という視点を持つようになっています。

子どもたちを対象とする病院探検隊
子どもたちを対象とする病院探検隊
医療従事者による公民館活動
医療従事者による公民館活動

病院経営にとって最重要課題の一つである人材確保についてはいかがでしょうか?

(国立、県立、製鉄記念、聖マリア)には各大学の医局から医師が派遣されますが、当院のような中規模病院に医局派遣は期待できません。

 

そこで2種類の医師紹介会社(サーチ型と登録型)を活用しており、特にサーチ型の医師紹介会社とは非常に深い関わりを持って医師招聘活動を行っています。先方には当院の今後の方向性や求めている医師像をしっかり伝え、深く理解いただいています。そこから当院の考えに合う医師や求めている医師像の方がいると聞けば、日本全国どこへでも私が会いに行き、何度も面会を重ねて双方合意のもと雇用契約を締結しています。この方法で2013年度以降、常勤医師が5名入職しています。

 

一方の登録型の紹介会社にも当院の今後の方向性や求めている医師像を伝えていますが、サーチ型の紹介会社ほど当院のことを理解いただいていないと感じています。 そこで医師紹介の案件ごとに当院紹介資料(今後の方向性と求めている医師像を記したもの)を渡し、転職を検討している医師に届けていただいています。それが実を結び2021年度は登録型の医師紹介会社を通じて4名の常勤医師が入職しました。

 

看護師の採用も当初は有料紹介業者に依頼しました。手数料は20%で、一人につき80万円~100万円ほどになり、年間2千万かかることが数年間続きました。

 

現在は複数の方法を取っています。一つはホームページで、2016年より求職者が直接応募できる仕組みを追加しました。2017年には、カレンダーで病院見学を申し込む機能を追加した結果、直接応募する看護師が増えています。

 

ユニークな取り組みとして、ハローワーク訪問があります。10年間、人事担当者に毎週ハローワークに通ってもらい、先方との関係性を築く努力を続けました。今ではハローワーク主催のマッチングサービスで当院を紹介いただいたり、アピールしやすい求人票作成のアドバイスも受けています。

 

ターゲットは主に子育て世代です。当法人が職員向け保育所(姫路市内の医療法人運営保育所として最大規模)を24時間体制で運営しているためです。産休後の復職率も高く、子育て世代を卒業した職員の理解もあり、非常に働きやすいという声をいただいています。また最近は看護学校の実習を受けるようになり、当院で実習を受けた看護学生が入職するケースも増えています。

 

ピヨちゃん保育園
ピヨちゃん保育園

介護職については、日本人のほかにベトナム人の採用を2017年度から進めています。働き手不足の対策として外国人の雇用を検討したところ、日本人の国民性に最も近いのはベトナム人であることがわかったためです。対象は、ベトナム在住で現地の看護大学か看護短期大学の卒業者で、日本に語学留学を希望し現地の日本語学校に通学している方々です。

 

ハノイでの面接
ハノイでの面接

面接はベトナムで行いました。理由は二つあります。一つめは面接を受ける側が抱いている「本当に日本の医療関係施設で働くことができるのか」という疑念を払拭するため、二つめは家族の方にも安心してもらうためです。現地面接で内定した方のご両親にお会いし、当法人が責任を持って対応することを伝えています。ベトナムでは女性の雇用が少ないこともあり、同年は14名の応募がありました。その中から2名を介護老人保健施設に採用することができました。

姫路市内の日本語学校を通じてアルバイトの募集も行ったのですが、これが意外にも人気でした。理由は対人関係の仕事であるためです。通常、外国人留学生の仕事は工場のライン等が主で日本語を話す機会が殆どありません。一方、介護施設では高齢者や日本人スタッフと話をすることになります。そのため勉強した日本語を使う場に恵まれます。これが外国人留学生に好評な理由です。現在は20~30代のベトナム人女性4名を雇用しています。彼女らは介護職で入国後、日本語学校で勉強し、その後介護福祉士の学校で資格を取得しています。介護福祉養成学校の卒業式の式次第を見たところ、成績最優秀者が当院の職員でした。日本人の生徒より外国人留学生の方が優秀な成績を修めていたことに驚きました。

職員のモチベーションをどのように向上されているのでしょうか?

当初はアメニティ環境の改善や研修会を行いましたが、あまり効果がないことに気づきました。医療従事者のモチベーションは、医療でなければ上がらないことが分かったためです。自分たちの仕事や役に立っていることがわかれば、自主的に取り組みます。今は「こういう医療や介護をやりたい」という要望にはできるだけ応えるようにしています。例えば医療機器の導入や勉強会への参加です。地域からの評価や感謝が職員の励みになるのは言うまでもありません。これはどこの病院でも同じではないでしょうか。

最後に今後の計画についてお聞かせください。

この地域は今後40年間で徐々に人口が減り、高齢化が進み「幅広い分野を横断するような診療体制」がますます必要な地域になります。当院ではこれまでの診療体制を維持しつつ総合診療部門を拡大し近隣施設と連携を強化することで、救急から在宅診療までを包括した医療を提供してまいります。

 

在宅診療は、総合診療科の常勤医師2名で訪問診療を実施しています。さまざまな理由で当院の外来診療に通院できなくなった患者から始め、最終的には訪間看護と連携し、在宅での看取りに対応できるようにします。急性期~慢性期と在宅医療において地域のトップランナーと認められる対応力と実績づくりを行い、地域包括ケアシステムの国内モデルケースになること目指しています。

 

そうした医療・介護を支えるために、ハード面では建物の建替えを行います。目的の一つは集約です。病院と介護老人保健施設・居宅介護支援事業所が車で5分ほど離れているため、過去には双方の協力体制に齟齬が生じることがありました。今は改善されていますが、物理的な距離は特に緊急時に弊害をもたらします。これらを一体的に運営し、法人内の医療介護連携を促進させる必要があります。

 

もう一つは機能です。救急を2000件以上受け入れるようになったため、救急の初療室が手狭になっています。当直室も不足しています。当直は医師と看護師しか考えていませんでしたが、今は放射線技師や検査技師、事務職員も当直するようになっています。持続可能な地域密着型病院に向け、調査やヒアリング、基本構想を進めている最中です。