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三和グループのイノベーション ~100年先までひとの役に立つ会社をめざして~

日本の企業数の実に 99.7%を占める中小企業。その成長は、社員や家族の生活維持はもちろんのこと、地域経済や社会の持続可能性に大きな役割を果たしている。本稿では、創業者である父の遺志を引継ぎ市場開拓と新たな取組みで躍進する三和商事株式会社(兄・小林正樹氏)と株式会社三和製作所(弟・小林広樹氏)の若き兄弟リーダーを取材した。

 

まずは会社の設立についてお聞かせください。

小林正樹

三和商事の創業は1962年です。父、小林康二がJR総武線下総中山駅と西船橋駅間の高架下で、教材や理化学機器の開発と販売、温室の研究のために設立しました。温室は、「冬季でも植物を育てたい」という学校の要望に応えたものです。当時は農業用のサイズが主流だったのを一坪~二坪用にダウンサイズするなど特許を取得し、さらに家庭用にも販路を広げガーデニングの普及に貢献しました。製造部門を独立させて1978年に設立したのが現在の三和製作所です。

創業者の小林康二氏はどのような人物だったのでしょうか?

小林広樹

父は1934年生まれで、戦後の裕福とはいえない環境で幼少期を過ごしました。埼玉県立浦和高校を卒業後、持ち前のアイデアを生かして理科教材の仕事に携わりながら事業を起こしました。私たちが物心ついた頃から社長でしたが仕事オンリーではなく、家庭を大事にする子煩悩な父でした。帰宅は夜6~7時で、家族で食卓を囲むのが常でした。

 

思い出すのは、椅子の上に正座し1ミリ方眼紙に温室の設計をしていた姿です。「10個のうち9個はモノにならなくても、残り1個が大きな成果をもたらす」というのが信条でした。その背中に「アイデアを形にする大切さ」や「勤勉な働き方」を教わりました。少なかった言葉数の中で「だまし討ちをしても結局最後は自分に返ってくる、帳尻が合うように世の中はできているのだから、自らが努力をしなさい」「抜け駆けをしても自分だけが裕福になることはない」との教訓が思い出されます。宝である社員を大切にし、仕入先や取引先と共存する人間中心の経営哲学を、私たち兄弟は自然に学んだのだと思います。

兄:小林正樹氏
兄:小林正樹氏
弟:小林広樹氏
弟:小林広樹氏

お二人が事業を引き継いだ経緯は?

小林正樹

学生時代から手伝いはじめ、父とは6年間一緒に仕事をしました。ところが、2005年1月の健康診断で腫瘍が見つかり翌月に入院。わずか半年後に他界してしまったのです。私が28歳、弟が25歳の時でした。当時はまだ家業の延長といった規模で、両社を合わせて社員は7名ばかりでしたが事業は軌道に乗り始めており、父の遺志を引き継ぐためにも覚悟を決めねばなりませんでした。

 

小林広樹

ところが経営者としてはゼロからのスタートで、決算書の読み方も知りません。焦燥感と危機感が交錯する中、毎晩二人で「明日からどうしよう?」と額を寄せ合ったものです。とにかく経営のイロハを身に着けようということで、週末は仕事の傍ら法政大学のビジネススクールなど多くのセミナーを受講させてもらうことになりました。勉強になったのは確かですが、父から社員や取引先を大事にすることを肌感覚で教えられたことが何より役立っていると思っています。

 

小林正樹

今もお互いに頼りながら事業を進めています。社員数や売上は飛躍的に増えましたが、私たち兄弟の関係性は変わっていません。

それぞれの会社とグループとしての特色は?

小林正樹

三和商事は、地域密着型のマーケティングを重視しています。顧客から直接ヒアリングしてニーズを汲み取り、求められる商品を企画して三和製作所に持ち込みます。

 

一方の三和製作所はより便利で低価格になるよう試作を繰り返し、「これはいいものだ!」とお互い納得がいくレベルに達した段階で顧客に提示します。「もっとこうして欲しい」との要望があれば、さらに試作を改良するといったニーズ先行のものづくりに徹しています。

 

顧客は全国の小中高等学校を中心に、企業や行政、一般消費者まで幅広いです。特にメインとなる教育市場では、週1~2回の「御用聞き」をしています。現場の困りごとを解決するには、休み時間や放課後に先生方から話を聞くことが不可欠であり、この機動力こそが我々の原動力なのです。

 

最近はICT(情報通信技術)化で電子黒板が普及しているため、その分野のノウハウを提供することが多くなっています。代理店は全国に500社ほどありますが、我々と価値観を共有していることを重視するため、各市に1~2代理店しか置いていません。その筆頭が三和商事であり、三和製作所はメーカーの位置づけです。

 

小林広樹

「痒いところに手が届く」から始まり、「三和で良かった」と言っていただくのが目標です。

 

三和製作所は木工や金属、感染予防用アクリル板等のオーダーメイドはもちろんのこと、情報システムも開発しています。

 

例えば防災用品の「困りごと」では、「期限管理システム」を無償で提供しています。一般的に倉庫に保管後は点検をせず、担当者の異動後は「何がどこにあるのかわからない」という状況が見られます。そこで我々が出向いて棚卸をし、誰でも管理できるよう、非常食であれば購入日や購入先、保管場所、賞味期限をQRコード付きでデータ化しています。顧客はスマホでもパソコンでもQRコードを読み込むことで情報を見ることができるのです。

 

情報化が進んでも職人気質は変わりません。全国代理店に配布する分厚い商品カタログを制作する際も、全てを外注にお願いすることはありません。市場調査など情報収集をはじめ、企画、設計開発、試作、そして流通まで社員を中心に一つの体として自らが手掛ける「一貫主義」を大切にしています。

続いて三和グループの最近の商品開発についてお聞かせください。

ビートボード

ビートボード
ビートボード

小林正樹

我々が拠点とする江東5区(墨田、江東、足立、葛飾、江戸川)、市川市、船橋市、浦安市は水害対策が常に必要なため、防災専門店「防災ファーム」を運営しています。浮くリュック「ビートボード」は店舗に多く寄せられた「防災備蓄を備えなければならないと思っているが、何を備えるべきかわからない」という声を聞いて開発しました。

 

これはリュックとしての普段使いできる一方、非常時には救命胴衣の役割を果たします。主な機能は3つです。

 

「浮力」は10㎏で救命用具以上の機能を発揮します。「給水」では断水時に中に注水して背負って運ぶ給水タンクとして使えます。底部のバルブから排水できるので、感染予防の手洗いにもなります。「防水」では豪雨にも浸水しないので、PCやタブレットを入れても安全です。評判は上々で、ケーブルTVの商品プレゼント企画に出品したところ、全国から1万件以上の応募があったほどです。

小林正樹

我々が拠点とする江東5区(墨田、江東、足立、葛飾、江戸川)、市川市、船橋市、浦安市は水害対策が常に必要なため、防災専門店「防災ファーム」を運営しています。浮くリュック「ビートボード」は店舗に多く寄せられた「防災備蓄を備えなければならないと思っているが、何を備えるべきかわからない」という声を聞いて開発しました。

 

これはリュックとしての普段使いできる一方、非常時には救命胴衣の役割を果たします。主な機能は3つです。

 

「浮力」は10㎏で救命用具以上の機能を発揮します。「給水」では断水時に中に注水して背負って運ぶ給水タンクとして使えます。底部のバルブから排水できるので、感染予防の手洗いにもなります。「防水」では豪雨にも浸水しないので、PCやタブレットを入れても安全です。評判は上々で、ケーブルTVの商品プレゼント企画に出品したところ、全国から1万件以上の応募があったほどです。


普及版自治体LINEアプリの開発

小林広樹

最近はホームページと並行させ、LINEアプリで市民サービスを行う行政が出ています。IT企業が多く立地する東京都の某区が先行していますが、オーダーメイドのため開発費に数千万円をかけたと言われています。地方の自治体でこれだけの費用をかけるのは難しい。そこで我々はニーズや機能を共通化し、数百万円で導入できるシステムを開発しました。特徴はメンテナンスのしやすさです。管理画面API(プログラム同士をつなぐインターフェース)を導入しており、LINEアプリの画面でITのスキルが無くても操作できます。

 

住民は申請書のダウンロードやアップロードをはじめ、行政担当者との双方向コミュニケーションが可能です。例えば道路が陥没した場合、住民が「問題発見」のボタンをクリックし画像を投稿する。役所は補修後に「完了報告」をする流れです。掲示板を利用すれば、利用者全員に報告できます。子育てやごみ捨て、防犯・防災、コミュニティ活動等、日々の暮らしに直結するやり取りやディスクロージャーを行えます。

AIZE(アイズ)

小林広樹

徘徊老人の事故防止を目的とする顔認証プラットフォームです。警察庁によると、認知症による行方不明者は年々右肩上がりで、2019年には1万7千人にも上っています。徘徊場所を特定するためにGPS端末を本人のペンダントや靴に装置する方法がありますが、電力の供給が課題です。

 

そこで発想を転換し、街中に設置された自治体や民間のカメラで追跡できるようにしたのがAIZEです。特長は認識制度の高さです。通常の顔認証が苦手とする角度や動き、マスクの装着に対してもAIによる解析で個人を特定できます。

これを可能にするのが顔の特徴を最大512の次元で捕捉し超高速で演算する技術です。

最後に、社員の育成はどのように行っているのでしょうか?

小林正樹

一人ひとりの個性を見極め、それをどうやって光らせるのかに配慮しています。光っていない社員がいる場合は、適していると思われる仕事、例えば営業が向かないのならばデザインを担当してもらいます。三和グループはバリュー・チェーン(価値連鎖)、すなわちマーケティング、原材料や部品の調達、商品製造や製品加工、出荷、販売、アフターサービスといった一連の事業活動すべてを重視しています。売り上げに関係ない経理のような間接業務でも、顧客に営業していることに変わりはないというスタンスです。

 

小林広樹

資格取得も有効な方法で、殆どの社員が社費で何らかの資格を取得しています。仕事に直結する技能が望ましいのですが、ペン習字でも何でもよいと思っています。とにかく勉強に前向きになることが大事なのです。実際、資格を取得することで社員の姿勢がガラッと変わっています。また、資格があれば、たとえ当社を退職しても他でキャリアを継続する道が開けます。そこまで考えての社員の育成だと思います。

 

女性社員やパートで子育等の事情がある場合には、フレキシブルタイムを採用しています。テレワークをはじめ都合により勤務時間帯を自由に変更できる、それが当たり前になるような働き方改革を推進しています。そのためにはDX(デジタルトランスフォーメーション)が不可欠なため、億単位の投資をしていつでもどこでもデータにアクセスして共同作業ができる環境を整えています。

社内に設けられたキッズルーム
社内に設けられたキッズルーム