第18回健康都市連合日本支部大会 ~大阪府泉佐野市~

大会会場
大会会場

 ウイズコロナ時代に移行する今、健康を基盤にまちづくりを再生するのが「健康都市」の役割である。健康都市連合並びに日本支部には、蓄積した経験と知見により、「人とまちの健康づくり」に以前にも増して貢献することが期待されている。そうした状況のもと、第18回健康都市連合日本支部大会が大阪府泉佐野市で2022年11月に開催された。2年にわたり中止を余儀なくされたが、市長や職員、市民団体の熱意により、「食べて 動いて しっかり笑おう」をテーマとする地域色豊かな大会を実現した。

本稿では、千代松市長のインタビューをはじめ、大会における市民団体の活動発表、さらに「笑い」をテーマとする基調講演の概要を報告する。

開会式

健康都市連合日本支部を代表して挨拶する本郷谷松戸市長

 

 「2021年度から健康都市の指標化(本誌26頁)に着手している。ウイズコロナ社会において、健康都市の活動をさらに活発化するために活用していきたい。」

健康都市連合を代表して挨拶する中村事務局長

 

 「世界中でプラネタリーヘルスと呼ばれる地球環境と健康が話題になっている。健康都市とSDGsの取組みはますます注目されるだろう。本大会は推進に向けたターニングポイントになる。」

開催都市を代表して挨拶する千代松市長

 

 「人生100年を迎える時代において、まちづくりや健康づくりの重要な課題を共有する地方自治体や団体が連携し、情報交換などを行うことは意義深い。新しい生活様式により日常生活が変わりつつある中、今回の大会が参加者の皆さんの課題解決の一助となることを期待している。」

◆泉佐野市千代松大耕市長インタビュー

今回の大会のテーマとなった「笑い」について市長の思いをお聞かせください。

 大阪にとって「笑い」はひとつの文化であり、永く生活の一部として定着しています。今日、「笑い」は健康に様々なプラスの影響を及ぼすことが共通の理解となりつつあります。コロナ禍であるからこそ「笑い」を健康に役立てていく取組みを、大阪から全国に発信していかなければならないと考えており、大会のテーマとしました。

 

基調講演には笑いを活用した予防医学の第一人者である大平哲也氏をお招きし、エビデンスに基づく笑いの効能と「笑いヨガ」についてお話しいただきました。また、大阪で笑いと言えば「吉本新喜劇」です。アトラクションでは川畑泰史座長にオリジナル台本を依頼し、「笑いと涙とアドリブ」満載の公演を催していただきました。

泉佐野市は「健康都市宣言」のもと、健康寿命の延伸に向けた環境づくりを進めています。重視する施策は何でしょうか?

 現在、第2次泉佐野市健康増進計画・食育推進計画に基づき、健康づくり事業の実践に努めています。重視するのは官民の連携です。今年度は、市民が自身の健康状態を理解し、よりよい生活習慣を実践できるよう、成果連動型民間委託契約を取入れました。これは、特定健診受診率向上のため受診率の成果指標を設定し、その指標の成果値の改善状況に連動して委託費を支払い、より高い成果の創出に向けたインセンティブを民間事業者に強く働かせる官民連携の手法です。

 

他にも民間との連携では、例えば本大会で報告いただいた「泉佐野元気塾」が、企業の業務用カラオケシステムを活用した介護予防教室を開催しています。歌と音楽を楽しみながら手や指を使った簡単な体操をすることで、身体機能の向上や転倒予防、認知症予防、口腔機能の向上などを目指す健康教室です。地域住民の生きがいの場やコミュニティの創出、健康寿命の延伸を目的としています。

一方で「まちの健康づくり」には経済も不可欠です。泉佐野市は「ふるさと納税 日本一奪還」を旗印に、「#ふるさと納税3.0」を考案しました。経緯と内容についてお聞かせください。

 本市は、過去の財政難を教訓として「国に頼らない自主財源の確保」を目指し、ふるさと納税制度の創設初期から工夫を凝らして多くの寄付を集めてきました。結果、2017年度から3年連続で受入額トップの座を獲得し、2018年には、約498億円を集めています。

 

ところが加熱する自治体間の返礼品競争に対して総務省が規制を開始したのです。本市は「見直しに応じない自治体」として公表され、制度から除外されてしまいました。本市はこの決定を不服として国を相手に裁判を起こし、2020年に最高裁で逆転勝訴しました。ところが同年、ふるさと納税制度に復帰したものの、新たな規制により、地場産品が少ない本市にとって極めて不利な状況となっていました。

 

そこで考案したのが「#ふるさと納税3.0」です。これは企業や個人事業主から新たな地場産品を創り出す提案を広く募集し、それが採択されればプロジェクトを立ち上げ、ふるさと納税制度を活用したクラウドファンディングで資金を調達するスキームです。目標額を達成すれば、新たに地場産品を創り出す事業を開始し、できた地場産品を返礼品として届けるという、「地方の未来への投資」となります。

 

クラウドファンディングにより目標寄付額を達成した場合、寄付額の4割を補助金として提案事業者に対して支援します。地方での新規事業展開を力強く後押しする施策となっています。

 

本事業はふるさと納税制度を活用したスキームですが、自治体の規模や体力、地域特性に左右されないため、「地方の衰退」という自治体共通の課題を解決することが期待されます。

 

初年度は民間事業者から9事業の提案があり、すべて事業化できました。本年度は17事業の提案があり、寄付を募っているところです。現時点ですでに昨年度比130%の水準で寄付をいただいており、日本一奪回に一歩近づいていると実感しています。

 

基本的に返礼品には食品や飲み物、アルコール類が多いのですが、これからは健康づくりに関係する提案も期待しています。過去の返礼品には、りんくう総合医療センターでのがん検診がありました。今後は医療機関での検診プログラムに加え、大阪府唯一の温泉郷である犬鳴山温泉を巡りながら健康体験できるプログラム等を提案いただければ、返礼品のラインナップに加えたいと思っています。健康関連の施策に生かせるような返礼品を全国に提供、もしくは本市に来て体験いただくことにより、本市の健康都市づくりを引き続き推進していきます。

泉佐野市 #ふるさと納税3.0の概要
泉佐野市 #ふるさと納税3.0の概要

来年度は、愛知県あま市での日本支部大会が予定されています。大会開催への期待についてお聞かせください。

 大会の開催は、住民や行政職員の健康づくりへの機運醸成に大きく寄与します。本大会においても、本市にもたらしたプラス効果は計り知れません。一方で準備には予算確保から関連団体との調整、プログラムの決定等多くの負担が伴います。

 

次期開催都市のあま市におかれましては、準備などに色々な調整やご苦労があろうかと思いますが、あま市らしい内容での開催を本市住民ともども、楽しみにし、成功を祈念いたします。もちろん、私も泉佐野市民とともに訪問させていただきます。

千代松  大耕(ちよまつ  ひろやす)氏

大阪府泉佐野市長

1973年大阪府泉佐野市生まれ。同志社大学経済学部卒業、米Lincoln University大学院、和歌山大学大学院などを修了。堀場製作所を経て、2000年2月に泉佐野市議会議員初当選。市監査委員、市議会議長などを歴任し、2011年4月から現職。

◆いずみさのみんなの健康づくり応援団

 「いずみさのみんなの健康づくり応援団」は2007年4月に設立された。目的は、ボランティア活動を通じて市民の健康意識を高め、健康づくりの啓発を図るとともに、会員自らが知識と技術を向上し、地域での実践活動を行うことだ。現在の会員は10名(男性2名、女性8名)で、緑のネクタイ、緑の旗を目印に活動している。

 

代表の角谷氏によると、活動には3つの柱がある。「メタボ撃退啓発活動」では、健診センターで実施されるがん検診の待ち時間を利用して、BMI値を計算しメタボ測定を実施。毎年、結果を「健康手帳」に貼ることで健康意識を高めている。重要なのが声がけだ。角谷氏は「前年度の結果から改善するように促したり、次年度もがん検診の受診の際に測定する予定を伝え、悪化しないように呼びかけています」と語る。

 

「紙芝居による健康情報の啓発」では、認知症や高血圧、ロコモティブシンドローム等の予防をテーマにオリジナル紙芝居を制作。要望があれば、市内の高齢者集会で無料上演している。特徴は、年を重ねるごとに起こりやすい題材を選び、解決策を味わいのある絵とユーモアで表現していることだ。主人公と周りの人のやりとりに共感でき、健康づくりのポイントについて楽しみながら理解できる。「会場では常に笑いが起こり、『わかりやすかった、気を付けます』との声が上がります。上演後の啓発が特に有効で、口腔機能改善では全員が唾液腺マッサージに集中できました。」

いずみさのみんなの健康づくり応援団。(後列向って右から3人目が角谷代表)
いずみさのみんなの健康づくり応援団。(後列向って右から3人目が角谷代表)
味わいのある絵とユーモアで人気の紙芝居
味わいのある絵とユーモアで人気の紙芝居

「食育啓発活動」では、乳幼児のBCG接種時の待機時間を活用して保護者に食事バランスガイドを配布。7年間継続したことで、認知度を92%まで高めた。さらに受動喫煙周知活動も進めることで、吐き出した煙や副流煙による被害防止に努めている。

 

こうした活動により、2015年には「第1回大阪府健康づくりアワード」において「健康おおさか21推進府民会議会長賞(優秀賞)」を受賞した。

角谷氏は「当初、応援団は高齢者対象の紙芝居を中心に活動していた」と回想する。その後、市の健康推進課からの提案もあり、成人を対象にがん検診時の腹囲やBMI測定を開始。さらに健康づくりは幼少時から始めねばならないと気付き、食育啓発活動や受動喫煙周知活動を始めた。「紙芝居から少しずつ活動が広がっていったのが実態です。」角谷氏自身、市役所のロビーで見た紙芝居に感動したことが参加のきっかけという。

 

千代松市長は「市民の健康づくりの大きな推進力となっており、今後もこれまで同様、創意工夫を重ねた内容で市民の健康づくりに活躍いただきたい」と変わらぬ期待を寄せる。

◆泉佐野市食生活改善推進協議会

 「泉佐野市食生活改善推進協議会」は2022年に56周年を迎えた。「私たちの健康は、私たちの手で」を合言葉に、食を通した家族や地域の健康増進活動をはじめ、食の大切さや食べる喜びを通して生きる力をはぐくむ食育推進運動を展開している。

 

会長の新堂氏によると、会員数は現在24名(男性1人、女性23人)で、会員自身の知識と技術の向上とともに、地域の健康づくりのために次の活動を行っている。

 

❶生活習慣病予防の啓発活動

❷2歳児の歯科健診を利用した食育

❸幼稚園への食育出前講座

❹おやこクッキング等の調理実習

❺「野菜バリバリ体操」の周知

➏食育フェスタ等における食育

❼高齢者向け在宅療養教室

 

長い活動の中で数々の賞を受賞しており、2016年には「第2回大阪府健康づくりワード(地域部門)もずやん賞(特別賞)」を受賞した。

 

新堂氏が同協議会に関わったきっかけは、自らが立ち上げた精神保健ボランティア活動という。「病院を出て一人暮らしをしている対象者の食生活に心配があったので、勉強のために食生活改善推進協議会に入会し、現在に至っています。」

 

食育活動では「野菜摂取量350g指導や調理実習での減塩指導が有効」と新堂氏。「実際に350gの野菜を目にして、『そんなに食べてない』とか『もっと食べている』と賑やかに盛り上がります。」減塩指導では塩分0.8%の味噌汁を試食してもらい、「味が薄い」と感じる体験者には、出汁を活用するなど減塩のコツを教えている。

 

メンバーはアイデア豊富で手先が器用だ。「野菜バリバリ体操」では、オリジナル衣装を身に着けて「野菜を食べよう朝昼晩~♪」と踊る。かわいくて親子で楽しく参加できると好評だ。

色とりどりの野菜コスチュームで「野菜バリバリ体操」を披露。(向って左から3人目が新堂会長)
色とりどりの野菜コスチュームで「野菜バリバリ体操」を披露。(向って左から3人目が新堂会長)
手作りフェルト弁当
手作りフェルト弁当

食事バランスを伝える弁当づくりには、手作りフェルトを活用。「見た目で皆が『うぁー』と寄ってきてくださり、大人も子どもも楽しんでお弁当作りをされます。」

食品つり
食品つり

特に子どもたちに人気なのが「食品釣り」だ。地域特産の野菜や魚を中心とする食品を釣り、赤・黄・緑の食品群に分けてもらう。「熱中してなかなか交代せず何度も何度も挑戦します。」

◆基調講演: 笑って  笑って「すこやかに」  ~すばらしき「笑い」の効果~

講師:大平 哲也氏

 そもそも笑いとは何か。面白いと思った時にはまだ笑いではない。「ワッハッハ」と声が出て、初めて「あの人は笑っているんだな」となる。笑いは声と笑顔の二つで構成されているのだ。笑うといろいろな筋肉を使うが、これが心身の健康に関係すると思われる。

さらに笑いは有酸素運動であり、1日15分間笑うと約40キロカロリー消費する。笑っているときのエネルギー消費は公園を散歩するのとほぼ同じだ。腹式呼吸によるリラクゼーション効果も大きい。脳内が一瞬空っぽになるため、痛みやストレスの悪循環を断ち切るリセット効果が生まれる。さらに笑うことで人づきあいや社会とのつながりが増え、身体機能の維持につながると考えられる。

 

笑いと長寿:1950年代に米国の研究者が野球選手のプロマイドを分析して追跡調査をしたところ、満面の笑みを浮かべていた選手の平均寿命が79.9歳だったのに比べ、笑顔が全く見られなかった選手のそれは72.9歳と、その差が7歳もあった。日本では山形県で健診に来た人を対象に追跡調査したところ、週1回以上声を上げて笑った人と1ヶ月以上笑っていない人では、5年間の死亡率に約2倍の差があった。

 

笑いと認知症:笑いは年齢とともに減っていくが、それは脳が老化するためだ。笑うためには瞬時に反応しなければならないが、脳の理解能力が衰えると笑えなくなる。そこで認知症との関係を調べると、ほぼ毎日笑う人に比べて、

笑わない人は認知症になりやすいことがわかった。

 

笑いと歯:笑わないと誤嚥しやすくなり、誤嚥性肺炎を起こしやすくなる。また、笑わない人ほど口腔機能が衰え、唾液の分泌や飲み込みが悪くなる。そこで歯の本数との関係を調べると、65歳以上では歯が残っている人ほどよく笑っ

ていることがわかった。 

 

笑いと要介護:「笑いが認知症に影響するからには、介護とも関係するはず」と調べると、65歳以上で笑いが少ない人は3年後に要介護になる可能性が2倍以上高いことがわかった。

 

笑いの医学的効能:以上に加え、笑いには主に以下の医学的効能が明らかになっている。

 

免疫力を上げる/痛みの緩和に効く/糖尿病者の血糖値を下げる/アレルギーを低下させる/高齢者の睡眠を快適にする/循環器や呼吸器疾患に効く/うつ症状を改善させる

 

笑いヨガ:これだけの効果があるのであれば、笑いを取り入れない理由はない。問題は「どのように笑わせるか」だ。

落語や漫才を試したが、全員が笑うわけではなかった。「誰もが笑うにはどうすればよいのか」、調査の末たどり着いたのが「笑いヨガ」だ。「笑いヨガ」は1995年にインドのマダン・カダリア医師が考案した健康法で、誰でも気軽に

実践できることから世界108カ国に広まっている。笑いの体操にヨガの呼吸法を併せた有酸素運動であり、基本動作で40種類、応用動作を含めると100種類以上ある。

 

笑いヨガの効能:落語では7割の被験者でストレスホルモンが下がった一方、「笑いヨガ」では9割で下がった。つまり、「何に対して笑うか」が重要なのではなく、「笑うという行為」が心にも体にも良いということだ。「笑いヨガ」はこの行為を最大限促す手段なのである。

 

笑いは、家族や友人と話をしている時に最も多くなり、人と人とのつながりが多いほど増える。ウイズコロナ社会では、感染予防を行った上でコミュニケーションを維持することが重要だ。地域の笑いを増やすことが、地域全体の疾病予防や健康寿命の延伸につながることが期待される。「笑う門には福来る」と言うが、人は幸せだから笑うのではなく、笑うから幸せになれる。「笑うという行為」を意識して「笑いヨガ」を実践していただきたい。地域で笑いを増やせば地域を健康にできる。笑いにはその力がある。


笑いヨガを実践する大平氏

 

手のツボを刺激しながら手拍子 ➡ リズムは「ポンポンパパパン」で、これを4回繰り返す ➡ 上体をひねって運動の要素を加える ➡ 笑いを加えて「ホホハハハ」を4回繰り返す ➡ 最後に万歳をしながら「イエーイ!」

大平 哲也(おおひら てつや)氏

 

医学博士。福島県立医科大学医学部を卒業後、米ミネソタ大学 疫学・社会健康医学部門の研究員や、大阪大学大学院公衆衛生学の准教授を経て、2013年に、母校医学部疫学講座の教授に。内科や心療内科の臨床経験から、笑いが身体におよぼす影響を研究中。笑いと呼吸法、ストレッチなどを組み合わせた「笑いヨガ」の啓発に取組むかたわら、NHK総合「あさイチ」やNHK Eテレ「人生レシピ」等、メディアでも活躍中。



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