ヘルスプロモーション上海宣言ワークショップ

上海宣言の表紙
上海宣言の表紙

2017年3月14日に東京医科歯科大学にて「ヘルスプロモーション上海宣言ワークショップ」が開催されました。

目的は、中国上海で開催された「第9回ヘルスプロモーションに関する世界会議」(WHO主催、2016年11月21~24日)において採択された「国連持続可能な開発のための2030アジェンダにおけるヘルスプロモーションに関する上海宣言」及び「健康都市に関する上海コンセンサス2016」の内容についての理解を深め、国内の自治体および関係機関での適切な活用に資する日本語表記について検討するとともに、ヘルスプロモーション、ヘルシーシティーのよりいっそうの推進について意見交換を行うことです。

 

 ワークショップを主催したのはWHO健康都市・都市政策研究協力センターと特定非営利活動法人健康都市推進会議です。同センターはWHOの研究協力機関としてシンポジウムや会議の企画・開催、出版物の編集・発行、学術的支援等を行い、国内外の健康都市づくりを支援しています。また、WHOと連携して活動する世界健康都市連合(Alliance for Healthy Cities)の事務局として、健康都市に取り組む自治体や団体の交流や研究活動の支援も行っています。

 

 参加者は行政、研究機関、民間団体の職員や研究者30名で、以下のプログラムに沿って意見交換を行いました。

  1. 第9回ヘルスプロモーション国際会議と今後の展開について  講師:中村桂子氏(東京医科歯科大学大学院 教授) 
  2. 「国連持続可能な開発のための2030アジェンダにおけるヘルスプロモーションに関する上海宣言」&「健康都市に関する上海コンセンサス2016」  講師:清野薫子氏(東京医科歯科大学大学院 講師) 
  3. 総合討論 
ワークショップの趣旨を説明する中村桂子教授
ワークショップの趣旨を説明する中村桂子教授
来賓として挨拶する厚生労働省大臣官房国際課稲田晴彦課長補佐/国際保健・協力室長補佐
来賓として挨拶する厚生労働省大臣官房国際課稲田晴彦課長補佐/国際保健・協力室長補佐
ワークショップの様子
ワークショップの様子

ヘルスプロモーション上海宣言の背景

中村教授は同宣言には2つの特長があると指摘します。世界が健康都市の重要性に同意したことと、SDGs(持続可能な開発目標)が世界共通の目標として掲げられたことです。

同ワークショップの配布資料及び国際連合広報センターのWebサイトによると、SDGsとは、2015年9月にニューヨーク国連本部で開催された「国連持続可能な開発サミット」において、150を超える加盟国首脳が採択した「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の中で掲げられた目標で、17の目標と169のターゲットから構成されています。2001年において、2015年を目標年度として策定された「国連ミレニアム開発目標(MDGs)」の後継で、人間、地球及び繁栄のための行動計画として、宣言および目標を掲げています。

因みに前回のMDGsでは、以下8つを数値目標と共に掲げています。

 

  1. 極度の貧困と飢餓の撲滅
  2. 普遍的な初等教育の達成
  3. ジェンダーの平等の推進と女性の地位向上
  4. 幼児死亡率の引き下げ
  5. 妊産婦の健康状態の改善
  6. HIV/エイズ、マラリア、その他の疫病の蔓延防止
  7. 環境の持続可能性の確保
  8. 開発のためのグローバル・パートナーシップの構築

 

MDGsは「極度の貧困と飢餓の撲滅」を1/3に減少するなど、一定の成果を上げましたが、特に教育や母子保健、衛生において、サハラ以南のアフリカや南アジア、オセアニア(島嶼国)で達成が遅れています。また、国内格差の拡大や持続可能な開発の必要性といった新たな課題への対応も必要になりました。

そこで「持続可能な開発のための2030アジェンダ」では、MDGsで残された課題に対処し、過去15年間で顕在化した新たな課題に対応するため、2030年の世界に向けた普遍的な誓約が盛り込まれました。旧来の南北対立の構図を克服し、あらゆるステークホルダーがそれぞれの役割を果たす新たなグローバル・パートナーシップの構築が必用であることと、人間の安全保障を理念とし、新たな開発協力大綱の下で「質の高い成長」(包摂性、持続可能性、強靭性)と、それを通じた貧困の撲滅を実現することです。

 

採択文書の骨子は、以下となっています。

 

1.序文

  • 持続可能な開発の重要分野として、人間(People)、地球(Planet)、繁栄(Prosperity)、平和(Peace)、連携(Partnership)の5つの「P」を例示。

 

2.政治宣言

  • 包括的で人間中心のゴールとターゲットを設定。2030年までに完全に実施する。
  • 誰一人取り残さない。
  • 先進国にも途上国にも等しく適用されるユニバーサルなゴールとターゲット。
  • ミレニアム開発目標を基礎に、同目標で達成できなかったことの達成を追及。
  • ODA数値目標(0.7%目標及び最貧国向け0.15~0.20%目標)を再確認。ODAは他の開発資金の触媒。

 

3.持続可能な開発目標(SDGs)

  1. あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる
  2. 飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する
  3. あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する
  4. すべての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を確保し、生涯学習の機会を促進する
  5. ジェンダー平等を達成し、すべての女性及び女児の能力強化を行う
  6. すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する
  7. すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する
  8. 包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する
  9. 強靱(レジリエント)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る
  10. 各国内及び各国間の不平等を是正する
  11. 包摂的で安全かつ強靱(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住を実現する
  12. 持続可能な生産消費形態を確保する
  13. 気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる*
  14. 持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する
  15.  陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処、ならびに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する
  16. 持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する
  17. 持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する

 ※SDGsは普遍的に適用されるが、各国の異なる事情を考慮する。各国は、このグローバルな目標をどのように各国政策等に反映させるかを決定する。

4.実施手段

  • 政府、市民社会、民間セクター、国連機関等全てのアクターが利用可能な資源を活用し、グローバルパートナーシップの下でゴールとターゲットの実施にあたる。
  • 持続可能な開発を支援するために、技術移転促進メカニズムを立ち上げる。

5.フォローアップレビュー

  • 原則として、自主的、国主導、包摂的で透明、人間中心、既存の仕組みを活用、実証ベースであるものとする。
  • グローバルレベルの指標は、2016年3月の国連統計委員会で合意され、国連経済社会理事会及び国連総会で採択される。
  • 国主導での国、地方レベルの進捗の定期的で包摂的なレビューを行うことを推奨。
  • グローバルな定期レビューは、国連経済社会理事会主催の下、持続可能な開発に関するハイレベル政治フォーラムで実施。
  • 開発資金国際会議プロセス及びSDGsの実施手段とフォローアップレビューは、ポスト2015年開発アジェンダのフォローアップレビューと一体。
SDGsの17の目標を示すアイコン
SDGsの17の目標を示すアイコン

ヘルスプロモーション上海宣言

上海宣言はWHOが主催する第9回ヘルス・プロモーション国際会議にて行われました。1986年にカナダのオタワで第1回が開催されて以降、数年毎に健康都市を中心にヘルスプロモーションの推進について、国際的な合意を形成するために各国政府、自治体、国際機関、NGO、民間企業などを招待して行われています。今回は中国政府との共同開催で、日本からは神奈川県大和市が招待され、大木市長が「健康都市やまと」の取り組みについての発表しました。

 

大和市によると、会議は李克強首相のあいさつで開幕し、パン・ギムン第8代国際連合事務総長やWHOのマーガレット・チャン事務局長らが講演を行いました。参加120ヵ国からは大臣40名、自治体の首長100名以上をはじめとするおよそ1,100名が参加しました。

 

ワークショップの配布資料によると、「ヘルスプロモーション上海宣言」の目的は、持続可能な開発アジェンダに健康増進を統合することを各国政府に要請することで、内容としては健全な都市開発や部門を超えた連携、地域コミュニティの参画、健康リテラシーの向上、そして健康で持続可能な発展等以下で構成されています。

 

  1. 健康と福祉は持続可能な発展の達成のために不可欠であることを確認する。
  2. 「国連持続可能な開発目標(SDGs)」すべてに対する活動によって健康を推進する。
  3. 健康のために大胆な政治的選択をする。
  4. 良いガバナンスは健康のために極めて重要である。
    • 政府が利用できる仕組みを十分に利用して、公共政策を通じて市民の健康を保護し福祉を推進する。
    • 健康に有害な商品に対する立法、規制、課税を強化する。
    • 強力な公衆衛生システムの構築等、健康と福祉への新たな投資を可能にするための強力な道具として、税制政策を実施する。
    • 健康と経済面の保護の双方を実現するための効果的な手段として、ユニバーサルカバレッジ(UHC)を導入する。
    • 透明性と社会的な説明責任を確実とし、より広範な市民の社会参画を可能にする。
    • 多国間にまたがる健康問題により良く対処するため、地球規模のガバナンスを強化する。
    • 伝統医療の増しつつある重要性と価値を考慮する。伝統医学は「SDGs」を含む健康課題の解決に貢献し得るものである。
  5. 都市と地域コミュニティは健康のために極めて重要なセティングである。
    • 社会的革新や双方向性技術を最大限に活用しながら、都市において保健福祉政策と他の政策の共通利益を生み出す政策を優先的に実行する。
    • 地域コミュニティの強力な参画を通じて、多様な人々の知見、技術及び関心事をつなぎあわせ、公平性(エクイティ)と社会的包摂を推進しようとする都市を支援する。
    • 保健サービス及び社会的サービスを改めて方向づけし、利用機会の公平の点から最適化し、人々と地域コミュニティを中心に据える。
  6. 健康リテラシーは公平性(エクイティ)実現の推進力となる。
    • 健康リテラシーが決定的な健康要因の一つであることを認識し、その強化のために投資する。
    • すべての人々にすべての教育の場で健康リテラシーを強化するため、部門横断的な国家、地方戦略を開発し、実践し、実施状況をモニターする。
    • デジタル技術の可能性を活かし、市民が自身の健康と健康決定要因をコントロールする力を強化する。
    • 価格政策、情報の透明性、表示ラベルの明確化により、健康な選択を可能にする消費者環境を確立する。

行動の呼びかけ

 我々は、健康が政治的な選択であることを認識し、健康に悪影響を及ぼす権利に抗い、特に女性と少女が健康を目指すために能力強化に対する障害を取り除く。我々は、民間企業から市民社会に至る様々なセクターそしてガバナンスの様々なレベルの政治的リーダーに対して、「SDGs」の全目標において健康と福祉を推進することの我々の決意に加わるよう強く求める。健康推進は、関係するすべての人々の調和のとれた行動を必要としており、そのために皆が責任を共有している。この上海宣言により、我々国際会議参加者は、ヘルスプロモーションのための政治的関与と財政投資を強めることで、「SDGs」の実現へ動きを加速させることを誓う。

原文表紙
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原文内容
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また、同時に開催された「健康都市国際市長フォーラム」では、各国の健康都市が「国連持続可能な開発目標2030」とリンクしながら、健康に関する施策をすべての政策において推進することを表明する「健康都市に関する上海市長コンセンサス2016」が採択されました。

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原文内容前半
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原文内容後半
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