フレイル予防とその実践

市川市の全日警ホール(八幡市民会館)で「フレイル予防とその実践」をテーマに講演会が行われました。講師は東京大学高齢社会総合研究機構の神谷特任研究員。わかりやすく科学手的根拠に基づく内容に、訪れた健康都市推進員およそ50名が熱心に耳を傾けました。今回は神谷氏の講演を豊富なスライドとともに報告します。

タイトル:人生100歳時代到来

     フレイル予防とその実践 ~地域ぐるみでフレイル(虚弱)予防~

講師:神谷 哲郎氏(東京大学高齢社会総合研究機構特任研究員)

日時:平成30年4月25日(水)15時~16時30分

会場:全日警ホール(八幡市民会館)

対象:健康都市推進員他、地域で活動している健康ボランティア団体

主催:市川市健康都市推進員会 後援:市川市保健医療課

協力:認定NPO法人健康都市活動支援機構

本日のお話の概要

人生100歳時代到来と言われていますが、今年100歳以上の方は全国で約67,000人おられます。また、昭和22年にお生まれになった団塊の世代の方々は、今年、70歳になられます。この団塊世代は全国に800万人位いらっしゃいますが、今から30年後には、100歳になられるのです。なんと、60万人もの方が100歳を迎える、そういう超高齢社会がやって来ました。

 

現在100歳以上の方の9割は女性です。しかし、残念なことですが、9割の方が要支援、要介護、それも介護度4~5の高い方の割合が多く、また9割の方に認知症の症状があるとも言われております。

 

今日の本題にあるフレイル(Frail)という言葉は、今までに聞いたことがない方が多いと思います。最近になって時々テレビで取りあげられるようになりました。フレイルとは、歳をとっていく過程で、足腰が思ったように動かない、転びやすくなった、友だちと会わなくなった、柔らかいものばかり食べているなど、日常的な些細な兆候から始まる「虚弱の状態」を示します。

 

殆どの人は人生を~80年位で考えてきました。定年後は悠悠自適だと思っていました。ところが今では80~90歳代の人生設計を考えるのが普通の時代になってきました。今日お越しの皆さんも恐らくそう思っておられるのではないでしょうか。

 

超高齢社会はお年寄り中心の社会ということではありません。地域には子育て世代も子どもたちも住んでいます。子供から高齢者までみんなが生活する社会を超高齢社会と呼んでいます。子どもたちが祖父母に「おじいちゃん、フレイルになっちゃだめだよ」という会話が日常的にできるような社会を作らなければなりません。

 

ということで、今日は地域ぐるみでフレイル予防をするお話をしたいと思います。介護予防という言葉があります。要介護認定を受けてその介護度が更に進行しないように予防することです。フレイル予防はもっと手前の状態で、介護とはまだまだ無縁の今日お越しになられた皆様のような元気な方々を対象とした健康づくりための運動です。「フレイル予防で100歳まで生き抜く!」という運動です。皆でそれを合言葉にして、様々な地域の活動に参加する一方で、引きこもる人にも出てきてもらう、お互いに支え合って健康に100歳まで生き抜いていくという気持ちを持つことが大切です。

 

神谷 哲郎氏(東京大学高齢社会総合研究機構特任研究員)
神谷 哲郎氏(東京大学高齢社会総合研究機構特任研究員)

今日の本題に入る前に柏市で行われた「市民の手による健康調査」についてお話します。東京大学高齢社会総合研究機構(飯島勝矢教授)では、「どの様にして人は老いるのか」を研究テーマに、柏市のご高齢の市民の方々のご協力を頂き、血液や口腔機能や筋肉量、認知機能等の研究調査をさせて頂きました。これを「柏スタディ」と呼んでいます。

 

 

この調査では柏市民のボランティアの方々にサポーターとしてお手伝い頂きました。3年間に渡る柏スタディに従事して頂いた結果、サポーターの方々は高齢者の健康チェックがきちんとマニュアル通りにできるようになりました。柏スタディの研究が一段落したところでサポーターの方々から私達が柏市民を健康に保てる仕組みを作って欲しいとの機運が生まれてきました。飯島教授始めスタッフ一同がその気持ちを汲み、市民による健康チェック(フレイルチェック)ができるプログラム開発に取組みました。当時は、このフレイルチェックのプログラムにはまだ市の予算がつきませんでしたが、市民サポーターの皆様はボランティアとして引き受けて頂ける様になりました。柏市ではその後、予算を捻出して頂き、フレイルチェックの地域拡大をして現在では年間に約1,000人の方々にフレイルチェックが行われる様にまで広がって参りました。そしてまた全国にフレイルチェックが展開する兆しも見えてきました。以上が本日、お話し致します内容です。

日本の高齢化を取り巻く課題<老いの長期化>

さて、本題に入る前に日本の高齢社会の現状について考えてみましょう。ここに「老いの長期化」とありますが、80~100歳という我々が経験をしたことのない、長期に渡る老いの期間(≒虚弱の期間)が人々に訪れるということです。日本の高齢化率(65歳以上の人口に占める割合)は現在、27%くらいで世界一です。江戸時代以前、高齢化率は殆ど0%に近い数字と推測されています。昭和20年代までは~5%でしたが、この60年の間で一気に上がってしまいました。人類史上、こんな経験はありませんでした。2050年に高齢化率は約40%近くに達し、そして日本の高齢化はいつまで続くのか。実は100、200、300年、、、と続くのです。

これが人口ピラミッドです。1920年の高齢者率は約5%で三角型でした。1950年のもそうですが、よく見ると下の部分が少し出っ張っています。この部分が団塊世代の方々を示しており、当時は1~3歳です。医療技術をはじめ様々な社会的課題が克服された結果、若死にが少なくなりました。しかし、その後、団塊のジュニア世代から始まる少子化の進行と団塊の世代が高齢化するにつれ、ピラミッドが上下逆転構造に近づき、2025年にはこの形(逆三角形)になることが分かっています。

所謂、2025年問題は、団塊の世代が一斉に75歳を迎える年を指しています。この大集団がフレイル予防をしなかったらその先どうなるのか。皆が施設に入れるとは思えません。また率先して施設に入りたいと思う方もいない筈です。フレイルにならない工夫をするしかないのです。

 

また、医療の課題も社会の変化に対応ができていないことが指摘されます。生活習慣病予防のメタボ対策では、お薬がよく効きます。高血圧や高脂血症、糖尿病のお薬ですが、重症化予防には、高い効果を発揮します。問題は高齢者のフレイル対策です。高齢の方で歩くことが遅くなった、階段を上がるのが辛いといった時にお薬は役に立ちません。お口がしっかりしていなければ栄養も十分に摂ることができません。社会参加も課題です。家に引きこもってしまうと何が起こるのか。先週の新聞にも出ていましたが、一人暮らしで、身体が弱ってくると生活から出るゴミも片付けられなくなってくると、やがてゴミ屋敷になってしまうのです。この老いの進行は医学では治せないということです。認知症の薬は良く売れていますが、本当に効くのでしょうか? 病院の診察室では効くかもしれませんが、その方が街中で普通の生活を送れるようになって、社会復帰をされたのかというと難しいのが現実です。それよりも、少しでもその兆候が出始めたら、地域の皆で支え合うことです。毎日外出をして、お互いに会話をした方がよほど認知症の進行を抑えるのに有効です。

 

冒頭に日本の高齢化は、100、200、300年と続くことをお話ししました。2100年になっても高い高齢化率はそのまま続いています。日本の人口はなんと4,500万人まで減少しています(厳しい予測のケース)。

 

 

未来の子どもたちのために私たちには何ができるのでしょうか? 介護や虚弱になってしまった高齢者を地域に大勢残すことが、その時代を担う子どもたちのためになるのでしょうか? 対策を講じ、未来に負の遺産(介護ばかりの社会)を残さないようにしなければならない、しかも今すぐです。あと10年放っておいたら果たして誰がやれるのでしょうか?

柏市の推測では、2030年は2010年に比べ、75歳以上の後期高齢者が全国平均の2.1倍を超えて3.4倍に増えることがわかっています。一方で若い人たちは増えません。また、2037年には殆どの地域で高齢化率が40%を軽く超えてしまう。これは、首都圏を外周する国道16号線沿いの自治体に共通して見られる現象です。市川市も例外ではありません。この時代に高齢者も子どもたちも幸せに生きていくことを考えねばなりません。

先ほど人生100歳時代のお話しをしましたが、これが100歳以上の人口増加のグラフです。1963年には153人だったのが2017年には67,824人にまで増え、その後も急激に増加し、50~60万人位の規模になります。80歳以上から虚弱化が急速に進行することを考えると、なにもしなければ、9割の人がそのまま要介護状態になるものと予測されます。

次は男女高齢者をとりまく実態についてです。男性は加齢とともに筋肉が著しく減少します。公園を誰よりも早く歩いていた男性が、時を経てやがて摺り足になり、前足が出ない状態になってしまう。男性は筋肉の衰えが思ったより早い。一方で私の87歳の義理の母は、ほぼ毎日洗濯物を持って2階に上がっています。女性は毎日台所に立ったり、掃除をしたり、布団を上げたりゴミ出しをしています。重いものは持ちませんが、日常的に体を動かすことがいつの間にかフレイル予防になっているのです。

 

女性にとって問題は骨折です。毎日、普通に生活をしていて、ある日、転倒して突然右足を折ってしまう。病院に行って直ったかと思うと今度は左足が折れ、それが治った矢先に背骨の骨折へと続くことがあるのです。これが要介護のきっかけとなってしまいます。

 

骨と筋肉の成長は密接に関係しており、男性も女性も運動は欠かせません。サプリメントを服用する方が多いかも知れませんが、高齢者のフレイル予防にはサプリメントだけでは役に立ちません。

フレイルの兆候は早い段階で出始めてきます。私達は先ずはこのことに自ら気が付き、またそうした人を地域で把握し、お互いに支え合うことが大事なのです。

 

スライドにある様に、多くの方は、70~80歳になると今までできたことが普通にできなくなります。バスに一人で乗車できたのができなくなる、銀行のATMでお金を下ろせなくなる、といったことが重なり、その後、早いうちに要介護の状態になってしまう・・・、そうなるのではなく、いつまでもバスに乗り、銀行に行くことができる、そうした人生を95歳を過ぎてもできる様にする社会(まちづくり)が必要なのです。

ところで、65歳以上は高齢者なのでしょうか? この定義は1955年の平均寿命を基にしています。当時の「サザエさん」に出てくる波平さんはこの時54歳の設定です。2016年度の平均寿命は83.2歳ですから、この定義で高齢者をいうのであれば、それまでは高齢者とは呼べないのではないでしょうか。80歳を超えたら高齢者と呼んでほしいと思います。

先ほどの人口ピラミッドですが、50歳以上で切り取ると三角形になっているのがわかります。大正から昭和にかけて、医療が今ほど整備されていなかった頃、生活の知恵の中でフレイル予防につながるいろいろな工夫がなされていました。近所付き合いや、地域での支え合いがありました。今、必要なのはこのピラミッドの真ん中に位置する人々(団塊の世代)のフレイル予防に他なりません。医療やお薬は手助けにならないので、自分たちでこの問題に取り組むしかないのです。

 

1950年の平均寿命と人口ピラミッドを考えると、人生はもう一幕あります、人生第2幕目が面白いのです。そういう生き方を考えないといけないと思います。

柏スタディ

<大規模高齢者虚弱予防研究「栄養と体の健康増進調査」>

人生100歳時代の健康課題はフレイルとの戦いです。答えは分かっているのです。栄養を摂り、運動をして、社会に参画することが答えです。国民も分かっています。しかしこのことを国民運動とするためにはエビデンスとして証明しなければなりません。東京大学高齢社会総合研究機構では、「柏スタディ」を通して研究をして参りました。

柏市豊四季台団地という柏駅の西方に建ち並ぶ大住宅地で、昭和37年、東京オリンピックの2年前に入居が開始されましたが、現在高齢化の最前線にあるのです。団地がある豊四季台1丁目は人口約900人で高齢化率が45.3%、要介護認定率は24.5%に上ります。柏市全体での高齢化率が24.9%、要介護認定率が14.5%なのでいかに高いかがわかります。

 

一方、同じ柏市のF町はどうでしょうか。人口は同様に900名程度で高齢化率もほぼ同じなのに、要介護認定率が12.1%しかありません。この違いはなぜ生じているのでしょうか?F町は、あまりごみなどが町中に目立ちません。町内の皆さんで町の美化に取り組んでいるからです。班で順番に交代されるので、お互いのコミュニティも形成されています。同時に足腰も鍛えられます。特に女性が活発と聞いていますが男性も活動されています。フレイルに強い町のお手本ですが、真似できないことではありません。

40~75歳(主には40~60歳)の現役を対象とした生活習慣病の診断基準はあるのに、今後75歳以上の人が急激に増えてくるのにその世代の予防基準がありませんでした。転びやすくなった、外出しなくなった、歯が弱くなり食べられなくなったといった老いの兆候を基に予防を講じることができれば簡単には要介護にならずに済むと思います。市民に行動変容を促すにはまずは基準を設けて自分事化して頂くことが必要です。柏プロジェクトでは、これを念頭に研究を続けて参りました。

2012年から、この写真に見える体育館などを使って、Tシャツを着たボランティアにお手伝いして頂き、健康調査を実施しました。場所は市内14か所の保健センターや近隣センターです。28回にわたり2,044人の被験者の方に対してお一人約2時間の調査を行いました。

 

最高年齢は今年99歳になる、当時94歳のとても元気なお婆ちゃんでした。こういう方がたくさんおられましたが、一方でまだ年齢的には若いのに、虚弱の兆候がみられる方もおられました。

ところで日本の高齢者の研究は、内科、整形外科、歯科、栄養、認知症分野などそれぞれが研究されていますが、しかし多くの場合にその専門領域に研究成果が偏重してしまう傾向があり、お互いの研究のつながりはあまりありませんでした。柏プロジェクトでは、一人ひとりの全体の状況を把握するために、血液所見、身体能力、筋力、認知機能、口腔機能に至る250項目余りをチェックして、この結果を横くしにして解析をできる様に致しました。

「指輪っかテスト」は、両手の親指と人差し指で輪を作り、利き足ではない方のふくろはぎの一番太い部分を軽く囲む方法です。身体が虚弱する課程で最初の兆候が表れるのがふくろはぎの筋肉量の低下です。指輪っかで、囲んだ時に隙間ができることで筋量が落ちていることが自分の物差しでわかるのです。

 

筋肉量が低下すると、最後にはサルコペニアという状態になり、歩けなくなることになってしまいます。サルコペニアに近づいてくると、筋力や食べる力、噛む力、会話力すべてが弱くなってきます。さらに鬱、物忘れの傾向が強まり、転倒の回数などもが増えていきます。このように、「指輪っかテスト」は自分の身体の筋肉量の低下の兆候を知る手っ取り早い方法です。

しかし、隙間ができたら要介護ということではありません。栄養を取ってしっかり運動をすればふくろはぎの筋肉は増えます。隙間ができないようにすればよいのです。

 

栄養を摂ること、運動すること、社会参画することこれが全部できている人とできていない人では、サルコペニアになる可能性が3.5倍違ってきます。要は一つでも○を多くすればよいのです。お付き合いを増やすとか、運動を始めるとかすれば、要介護から遠ざかることができるのです。

 

社会性が重要ということが分かってきました。みんなで支えればよいのです。社会との関係性が少なくなってきたらそれがフレイルの入り口です。

 

小学校や中学校の学校の先生もこのことを教えなければなりません。高齢社会とはどんな社会かについて、まだまだ先生方はわかっておられないのではないでしょうか。家族みんなで高齢者を支えていくまちを作るためには、フレイルについての知識をみんなで持って、みんなで予防しなければならないことを子どもにも教えねばなりません。

栄養や運動や社会性などの専門的な話をフレイルサポーターの方が市民の皆様にすると、「専門家でもないあなた方のお話?」と言われることがあります。でもよく考えてください。フレイルの入り口は社会性の低下からです。今日参加されている皆様のように、ここに来ること自体が社会性そのものであり、皆様は、自信をもって引きこもりがちな人たちを支えることができる「専門家」でもあります。柏スタディで「大事なのは社会性」だとお話したところ、サポーターの皆様にしては「そうだったら私達に任せてください」ということになるわけです。

繰り返しますが、健康長寿の3つの柱は栄養と運動と社会参画です。これらが欠如すると健康と介護・病気の中間的な段階に入ってしまう。日本老年医学会は、これを「フレイル」と名付けました。プレフレイル、フレイルの状態からであれば、努力すれば要介護になる可能性は少なくなります。

 

フレイル予防を普及させるため、私たちはフレイルチェックを全国に展開しています。高齢になっても地域で健康でお互いに助け合って支え合えるまちづくりに貢献したいと願っています。

高齢者のフレイル予防対策

<市民参加型健康づくり推進プロジェクト>

これが東京大学高齢社会総合研究機構と柏市の市民サポーターが一緒になって掲げたフレイルチェックに向けての5つの目標です。市民が気軽に参加し、栄養と運動と社会参画を同時に学び、楽しく、気づいて自分事化し、いろいろな人たちに参加してもらい、フレイル予防への行動変容を起こす内容です。「行動変容」を入れたのは、フレイルチェックはチェックだけですので、その後に皆で行動を変えて継続させることが重要だからです。

一方で、フレイルサポーターが自己流で市民を対象にフレイルチェックしては困りものです。そこで、サポーターの養成研修を行っています。2日間の研修後、現場でフレイルチェックの各項目を実施してもらう為の研修です。2日間は座学と実技研修からなります。研修では「指輪っかテスト」、イレブンチェックというアンケート形式での聞き取り、「深堀りチェック」で機器を用いてデータ収集の技法を学びます。測定結果と合わせて、一定の基準を基に、それぞれの項目ごとに青か赤のシールを貼付致します。

イレブンチェックのアンケート項目では、赤のシールが増えるほど、フレイルに近づいていることがわかります。健康な状態に近づく動機付けをしたい。シールはそのために有効です。赤と青シールなら誰にでもわかりやすいです。

 

中には手が震えるなどしてうまく貼れない人たちもおられますが、サポーターがお手伝いながら自分で張ることができます。そうした状態の人が足を運んでくれること自体、有難いことですが、フレイルの進行度合いに自ら気が付いて頂くことは大変意味があると考えております。

フォローアップチェックは半年に1回行っています。70歳くらいの元気な人はまだまだ大丈夫ですが、80~90歳にもなると、チェックを受けたこと事態を忘れてしまうことがよくあるためです。何回も繰り返しながら日常活動の質を高めてもらい、90歳になっても半年に1回は会場に来てもらうためのフォローアップです。

 

同じ会場で同年齢ながら、左と右の人ではシールの色が違います。左の人は全て青色、右の人には赤が多いのですが、外見の違いはあまりわかりません。赤シールは、多いからダメというのではなく、多かったらどうすればよいのかという方向付けをしてもらうためのものです。フレイルの兆候は自分で見つけねばならないのです。

 

赤シールが2~3つ程度ならば、サポーターの方に社会参画や運動をすることを促して頂くのですが、赤シールがかなり増えてしまうと市の地域包括ケアのプロの方々につないでいくことにしています。そのために市役所と連携しています。会場にはいつも地域包括ケアや市役所の担当者に来てもらっています。サポーターの方も安心してフレイルチェックに取り組めるというわけです。

NHKもチョイスという番組でも紹介されました茅ケ崎市での実例ですが、81歳の女性がフレイルチェック後、健康づくりに向けて行動変容された結果です。体重が45キロくらいで、痩せていた方がいいと思っていたのが、そうではないことに気が付かれて、その後体重を5キロ増やして、様々な活動に取り組まれる様になられました。

次はオーラルフレイルについてです。

 

フレイルチェックでは、「噛んでいるときにむせることがありますか」、「硬いものを噛むことができますか」、「滑舌は大丈夫ですか」などについて聞いています。80歳まで20本の健康な歯を維持する8020運動がありますが、今は100歳までどうするのかという時代です。80歳の20本の歯を土台にして100歳までお口の健康に食べることを維持し続けるのがオーラルフレイル予防の活動です。

 

柏スタディの研究では、お口が弱るとサルコペニアになってしまう危険度がそうでない方に比べて2.8倍になることが分かっております。しっかり噛むことができないから、豆腐とかうどんといった柔らかいものばかり食べてしまうと、さらに噛む力は弱くなってしまいます。白身の魚ばかりよりも本当はお肉を食べなければいけません。食べにくいのであれば、1cm四角位に切って口に入れ、ゆっくりでもいいので噛む力を落とさないようにする。それが元気な身体を作ることにつながるのです。肉を食べなければしっかりと筋肉がつきません。1日60gのたんぱく質を摂る必要がありますので、それには200gくらいの肉を食べるべきです。若い人と同じようには食べられないかもしれませんが、努力をしなければどんどん弱ってしまいます。健康に100歳まで生きるためには、お口や食べることを大事にしなければなりません。

フレイルチェックに参加いただいた方々のアンケート結果では殆どの方が「参加してよかった」、「自分も早くこのことに気が付けばよかった」と話されております。

 

皆様もご経験があると思いますが、健康増進に向けての活動は、健康に関心を持っている人は参加してもらえるけれども、本当に参加してもらいたい人(健康に関心のあまりない方)にはなかなか参加してもらえません。フレイル予防でも同じことが言えます。アンケートの結果を基に、関心期、準備期、実行期、維持期の段階に分け、分析をしていますが、フレイルチェックでは、サポーターの支援で一人でも多くの人に実行期から継続期に向けて変化してもらえるようにしているのです。また、説得力を持つには、サポーターご自身の満足度も高くなければなりません。サポーターへの調査結果では、活動にやりがいを感じてもらえていることがわかります。

この写真はフレイルチェックを受けられた方で、ほぼ全てが赤シールの方です。どこの会場でも時々おられます。恐らく要支援認定の一歩手前の方ですが、こうした人こそ地域包括ケアの専門家がケアをしなければなりません。フレイルサポーターは本人の了解を得て、専門家につなぐようにしています。

柏市では、フレイルチェックをどのように活用していくかということが議論されています。医師会や歯科医師会の先生方がアドバイザーに入られて、地域のふるさと協議会や社会福祉協議会、健康づくり推進員等の皆様でフレイル予防の推進委員会の中心メンバーになられて、柏市のフレイルチェックの仕組みづくりを協議されています。フレイルチェックを通して地域にある様々な健康づくりの活動をお互いに見えるようにすることと、いろいろな地域でフレイルチェックを推進し活用していくこと等が討議されています。

市の事業は、保健所や地域包括支援センター、社会福祉協議会への委託など、関係部署が多岐にわたって、それぞれ独自に健康づくりに向けた事業がなされていますが、組織が縦割りになっているため横の連携をとることが難しいという課題がありました。このフレイルチェックでは、それぞれの活動の効果に対し、客観的な評価が期待できます。柏市では全地区にフレイルチェックを広げていくことも確認されました。現在、「柏フレイル予防プロジェクト2025」という形で、柏市の介護予防事業の一環としてスタート致しました。概念図がこれですが、目標は、より早期からの「三位一体(栄養・運動・社会参画)」へアプローチにより、いつまでも健康で充実した生活を営める健康長寿のまちを目指すことです。

市内でいろいろな活動をしている団体と協働するにあたり、商店街も例外ではありません。住民がフレイルになると来店してもらえなくなり、経営も難しくなるためです。まち全体でフレイル予防に向けて立ち上がることを目標に掲げています。

全国では、平成29年度までに19市町村(赤色)が現在フレイルチェックに取り組んでいます。青色は本年度から取り組む市町村で、ほぼ倍の数の自治体になります。

東京大学高齢社会総合研究機構は、研究の目的で自治体のフレイルチェックに協力することは出来ますが、事業としてはできません。一般財団法人健康・生きがい開発財団がフレイル予防の全国拡大に向けて、東京大学高齢社会総合研究機構の飯島勝矢教授の監修の下で事業部分を担い、フレイルトレーナー養成研修(フレイルサポーターを養成する指導者づくり)と地域で行われるフレイルチェック事業の事業サポート、フレイルチェックデータの電子化を推進し、将来的には自治体での介護認定に向けてデータの活用を視野に入れて事業を行っています。このフレイルデータは、高齢社会総合研究機構とともに市町村に参考資料として還元される仕組みです。

これは、フレイルトレーナー養成研修の流れです。前述しましたが、フレイルトレーナーがサポーターの養成研修を実施する為の養成研修です。フレイルトレーナー候補が、先ずはサポーターの一員として、2日間の研修(座学と実技)研修と後、現場でフレイルチェックの各項目を実施してもらう為の研修です。

フレイルトレーナー・サポーター連絡会の構想ですが、サポーター同士で地域の活動について、お互いに話し合い検討する場です。冒頭に介護認定の割合が高い地域や低い地域について紹介しましたが、地域毎に課題が異なることを踏まえて、ここではどのような活動をすればよいのかといったことをサポーター同士でデータを基に議論してもらいます。

次が西東京市でのフレイルチェックの様子です。フレイルサポーターの養成研修をこのように実施しました。活動の場は、市民の集いやまつりの場や医師会の勉強会等に普及しています。

これは和歌山県紀の川市でのフレイルチェックの様子です。Tシャツを着たフレイルサポーターが活躍しています。紀の川市のフレイルチェックのスキームを記していますが、市の職員と市民サポーターにより作図されたものです。PDCA(Plan⇒Do⇒Check⇒Act)という企業でも良く使われる手法に倣って地域の活動を盛り上げています。

紀の川市は農家が多く高齢化がかなり進んでいます。パソコンやプロジェクターには馴染みが少ないので、サポーターの方が工夫されて、紙芝居を作成され、フレイル予防を分かり易く伝えています。保健所の元所長さんが紙芝居を携えて精力的に地域を回っておられるのです。同じように飯塚市でも、紙に説明を書きこんでやっている人がいます。パソコンを使わなくても、創意工夫すればよいのです。

 

これは飯塚市での様子です。ここでも全国共通のTシャツを着用しています。最初は、飯島教授が講演を行われました。サポーターの方の積極的なボランティア活動に対して、市から感謝状を授与しています。

地域包括ケア

<官民連携(フレイル予防産業の創出)>

最後にまちづくりについてお話します。

 

フレイル予防というのは100歳になっても住み続けられるまちづくりの入口政策です。80歳~100歳になられる方がこれから増え続け、2025年にはおよそ2,200万人もの方が後期高齢者になります。

 

まちづくりは、市役所だけではなく、大学の知見、市民活動に加えて、地域の商店街や民間企業も一緒になって取り組む活動です。

 

またフレイル予防とは一次予防ということで、健康都市連合の皆様のお取り組みと変わりないのです。市役所でこれを推進する一方で、地域の商店街やモールなどでも展開すればもっと効果が高まります。その際にフレイルサポーターの方々には市で行うフレイルチェックと商店街で行うチェックの両方の担い手として携わって頂きます。

 

この絵は市のサロンやショッピングモールの特設会場等でのフレイルチェックの展開を表しています。サロンやモールの他に美容院やスポーツ用品店、レストラン、リゾート施設などの民間事業者にフレイル予防に協賛して頂き、市内全域で活動領域を広げていくことを表現しています。

 

女性が90歳になっても定期的に美容院に行くことができる社会、90歳になっても10年のパスポートを作り、健康である限り旅行に出かける気持ちを持つ、一人暮らしになってもいつでも美味しい食事が皆でとれる、こういう社会を作ることで、人も、まちも活性化します。

また、産業の市場参入も期待されています。人が健康で生き生きとしたい気持ちは、どの方にもあります。介護予防のかなり手前に位置付けられるフレイル予防は、栄養をはじめ口腔ケア、運動能力、地域のコミュニティの活性化といった分野で市場開発が期待されます。企業にも参入してもらい、民間活力による創意工夫もどんどん発揮していただきたいと思います。

これが最後のスライドです。冒頭で紹介したように、なぜF町は要介護認定率が低いのでしょうか? 地域ではスライドに記した4つの活動を主に実施されています。この4つの行間にはフレイル予防の要素が一杯詰まっています。例えば「ふれあいパトロールの会」では、交代してパトロールする間にゴミ拾いをしたり、手入れが行き届いた庭を見るとガーデニングに励んだりといった健康にいいことを、地域でお互いが実践しているのです。

 

これが私達の目指す、高齢社会に強いまちづくりです。因みに、柏市で最初にフレイルチェックを導入して、実践されたのも、この「F町」でした。

以上です。ご清聴ありがとうございました。



公式サイト


事業サイト


健康都市連合



ヘルシーパートナーズ協賛企業