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「事業所ぐるみの取り組み」が功を奏して、健康経営事業所が増大!

「健康寿命の延伸」に向けて大分県が花王と連携し取り組んできた「働き盛りの健康みえる化促進事業」。この3年間で大きな成果を上げ、今後は体制も新たに「裾野の拡大」という次のステージへ踏み出します。

 

「事業所ぐるみの取り組」が課題に!

県の「健康寿命日本一」への取り組みを語る大分県 福祉保健部 健康づくり支援課 藤内修二課長
県の「健康寿命日本一」への取り組みを語る大分県 福祉保健部 健康づくり支援課 藤内修二課長

「県が認定する健康経営事業所の数が、大幅に増えたのはたいへんうれしいことです」と、この3年間の実績に手応えを感じるのは、大分県の福祉保健部 健康づくり支援課の藤内修二課長です。成果を生んだ要因の1つが、県が花王と連携し取り組んできた「働き盛りの健康みえる化促進事業」です。

 大分県では現在、県民挙げて「健康寿命日本一」を目指しています。きっかけは、2010年に発表された都道府県別の健康寿命データです。同県は、平均寿命は男女とも10位以内なのに、健康寿命は男性が39位、女性が34位でした(※2016年調査結果では男性36位、女性12位にアップ)。

 「たいへんショックでした」と藤内課長は振り返ります。「原因を調べてみると、働き盛りの50歳前後に『健康上の理由で日常生活に支障のある』状態になる人が急増していることがわかりました。働き盛りの世代に対して、健康づくりの行政サービスが届いていませんでした」

 そこで県は2014年、壮年期の保健事業を職域で受け持つ協会けんぽ大分支部と連携協定を結び、「健康経営事業所認定制度」をスタートさせました。従業員の健康支援に積極的に取り組む事業所を応援し、優秀な企業を認定・表彰する制度です

 「ただ、始めてみて、健康経営事業所と認定する条件(右表参照)のうち、『事業所ぐるみの健康増進の取り組み』の条件をクリアできない事業所が多いことがわかりました。1年目はわずか45の事業所しか認定できなかったのです」


職場・地域での新しいヘルスサービスの可能性 ~ホコタッチの導入~

事業所の担当者を招いて、県内各地で開かれた「働き盛りの健康みえる化促進事業」説明会(2016年度の様子)
事業所の担当者を招いて、県内各地で開かれた「働き盛りの健康みえる化促進事業」説明会(2016年度の様子)

 こうした実情を踏まえ、「事業所ぐるみの健康増進の取り組み」を応援しようと翌2015年にスタートしたのが、「働き盛りの健康みえる化促進事業」(3年計画)です。この事業では、花王の専用歩行計を用いた集団参加型プログラムが、プロポーザルを経て採用されました。

 「ホコタッチ」と呼ばれるこのシステムは、健康づくりを職場ぐるみで“楽しみながら簡単に継続できる”のが特徴です。

 専用歩行計は、歩数だけでなく、歩行の速度を正確に測定します。速度を意識して歩くこと(中強度の運動)は認知症・介護の予防にもつながります。

 そして、歩行計に蓄積されたデータを“ホコタッチステーション”に赴いて定期的にフィードバックすれば、日々の細かいデータだけでなく、歩行生活年齢や総合評価などの結果が示され、モチベーションが上がります。また、これを通じて従業員同士の会話が弾みます。“職場の健康コミュニケーションを生むツール”とも呼ばれる所以です。

健康経営事業所数の推移。登録、認定ともに増加している
健康経営事業所数の推移。登録、認定ともに増加している

 こうして、各職場では歩行速度を意識した歩き方が定着するとともに、健康についての前向きなコミュニケーションが増え、事業所ぐるみの取り組みが進み、この3年間で健康経営事業所の数も着実に増加しました(左表参照)。

 また、県と保健所が一体となってこの事業を推進する中で、保健所と事業所のつながりも深まりました。

 「このシステムの費用は、初年度は行政の負担ですが、翌年度からは各事業所に負担していただきます。それでも、次年度以降も3、4割の事業所が自主的に継続していただきました。ホコタッチが評価されている表れだと思います」と藤内課長。「ホコタッチなら小さな事業所でも効果的なサービスが提供できる。新しいヘルスサービスの方向性、可能性を感じさせてくれました」と評価します。

 こうして事業終了後の今年度も、18社、300名の方々がこのシステムを自主的に継続しています。

「モノクロ印刷になっていますが」と藤内課長が見せてくれたご自身の3年間のホコタッチ結果データ。「歩行生活年齢」は23歳に! 「膝や腰が痛い、血圧が高いなど、ネガティブな話題ではなく、どれだけ速度を意識して歩けたか、歩行生活年齢がいくつ若返ったか、というように、話題がポジティブになります。この方が楽しいですね」と藤内課長
「モノクロ印刷になっていますが」と藤内課長が見せてくれたご自身の3年間のホコタッチ結果データ。「歩行生活年齢」は23歳に! 「膝や腰が痛い、血圧が高いなど、ネガティブな話題ではなく、どれだけ速度を意識して歩けたか、歩行生活年齢がいくつ若返ったか、というように、話題がポジティブになります。この方が楽しいですね」と藤内課長

歩行の「質」が自然に話題になる職場 ~日出ハイテック~

 実際に「働き盛りの健康みえる化促進事業」に参加した県内の事業所を訪ねてみました。創業31年になる㈱日出(ひじ)ハイテック(速見郡日出町)。半導体の設計・開発から製造までを一貫して行う企業です。

 この春、日出ハイテックは「健康経営優良法人2018」(中小規模法人部門)」に認定されました。優良な健康経営を実践している法人を経済産業省が毎年顕彰する制度で、県内で今回認定された3法人のうちの1社です。

 「弊社では、創業当初から従業員の健康には留意してきました」と話すのは岩尾出男 代表取締役社長です。ストレスフリーをめざして、創業時から週休2日制を採り入れるなどの施策を講じてきました。

 とはいうものの、職種上デスクワークが多く、部署間の移動もほとんどありません。しかも、通勤はクルマでドア・ツー・ドア。平均年齢40代、84名の従業員にとって、運動や歩行の質と量が不足がちになるのは否めません。

 この事業に参加するきっかけを、担当の小池智子さん(組織開発本部)に伺いました。

 「県の『健康経営事業所』に登録したのは、2015年1月のことです。じつは、期限内に登録すれば全社員にヘルシア(花王の特定保健用食品)が提供されるとのことで、主婦目線の発想でした」とにっこり。

 「その後の県主催の『働き盛りの健康みえる化促進事業』の説明会には出席できなかったのですが、あとで保健師さんが来られて『参加しませんか』と声をかけてくださいました。無料ですし、社員の健康増進につながるなら、と参加することにしました」(同年10月)。

 ホコタッチ導入後しばらくして同社では、従業員のモチベーションをさらに上げるため、独自の仕掛けも設けました。ホコタッチの成績表に示される「総合判定」結果のA、B、Cをポイント化し、その点数に応じて、万一の入院時に使える特別有給休暇を付与する制度です。この制度のもとで、すでに従業員平均で2~3日ほど特別休暇が貯まるまでになっています。

 この制度を導入すると、“ポイントを上げるコツ”がいつも職場で話題になります。仲間から質問を受ける高得点者がコツを伝授することで、歩行の速度が大事、と自ずと気づかされます。職場内のコミュニケーションも活発になりました。

社内の一角に設けられた“ホコタッチステーション”。結果が印刷され、従業員間のコミュニケーションも活性化
社内の一角に設けられた“ホコタッチステーション”。結果が印刷され、従業員間のコミュニケーションも活性化

 初年度は県が負担する費用も、次年度からは事業所負担となりました(基本利用料 月額約250円/人)。これについて、岩尾社長は「ハードルは高くありません。従業員の健康はなによりも優先されるからです。健康でベストコンディションを維持することは仕事の大切な一部ですから」ときっぱり。

 県では、「おおいた歩得(あるとっく)」というスマホの健康アプリの運用も始まっています。「ただ、スマホを持っていない人、あるいはスマホ持ちこみ禁止の職場もあります。ホコタッチなら全員配布で、機会が公平に与えられるメリットもあります」と小池さん。

 こうして、同社は「健康優良法人2018」の認定を受けるに至りました。

「健康経営」が浸透してきた今、「裾野の拡大」が課題に

 このように、職域で成果を上げた「働き盛り世代の健康みえる化促進事業」は、今春でひとまず区切りを迎えました。

 藤内課長は総括します。「この3年間の健康経営事業所認定数の増加推移を見ればわかるように、事業所ぐるみの取り組みが功を奏しました」(推移表参照)。

 そして、「健康経営」という経営方針が県内で市民権を得つつあることを強調します。

 「これまで企業にとっては生産性や生き残りが最優先され、従業員の健康が後回しにされがちでした。しかし今では、従業員の健康づくりを重視する健康経営こそ生産性向上に不可欠と考えられるようになってきました。たとえば、大分県信用組合でも県民の健康づくり・健康経営の推進に対して金融上の優遇施策を講じるなどの取り組みを始め、企業、金融機関の双方に好ましい循環が生まれています」

 「とはいえ、まだまだです」と藤内課長は表情を引き締めます。「県内の健康経営事業所はまだ1,200ほど。未登録事業所は約1万8,500もあります。従業員数で見れば、協会けんぽ大分支部加入25万人のうち9万5,000人、38%にすぎません。これからの課題は『裾野を広げること』です」。

新しい体制のスタートと“多様な主体との連携・協働”

 藤内課長はサポート体制の強化に言及します。

 「今年度から県では、事業所を訪問してくれるサポーターである『健康経営推進員』制度を設けます。社会保険労務士、中小企業診断士など中小企業に出向く機会の多い方々に研修を受けていただき、この推進員の訪問によって、タイムリーな支援をしていただく予定です」

 一方、ホコタッチシステムのサポート体制の強化も求められるところです。

 「裾野の拡大」に向けてこの役を今後担うのは、地元の企業である㈱プランニング大分です。同社は総合広告代理店業務だけでなく、指定管理者として地方自治体の業務を受託するなどし、地元の発展に貢献してきました。じつはこの3年間も同社は花王を補佐しホコタッチのサポート役を務めてきました。今後は従来のサポートに加え、裾野拡大に向けて、さらに積極的に動くことになります。

 同社の田代好昌 常務取締役は決意を語ります。「この3年間、花王様のもとでサポートをさせていただきましたが、ホコタッチのサービスがシンプル・明快で、健康寿命の延伸を目指す大分県、各事業所にとって素晴らしいシステムだと実感しています。弊社としては、花王様のノウハウ、情報を活用させていただき、アドバイスを受けながら、積極的に裾野拡大の一翼を担っていきたいと思います」

 これまで県と連携してきた花王の根橋 勉氏(コンシューマープロダクツ事業部門ヒューマンヘルスケア事業企画部)も、「過去3年間、花王は本事業に直接関わり実績づくりに貢献させていただきましたが、今後もプランニング大分様を通じて、大分県の健康寿命延伸を支援させていただきます」と変わらぬ姿勢を明らかにしています。

 (左から)プランニング大分の田代好昌常務取締役、日出ハイテックの岩尾出男代表取締役社長、花王の根橋勉氏
(左から)プランニング大分の田代好昌常務取締役、日出ハイテックの岩尾出男代表取締役社長、花王の根橋勉氏

 藤内課長はプランニング大分のサポートに期待しています。「この3年間、連携させていただいた花王様が提供するサービス・商品が、利用する方・購入する方に健康をしっかり届けようとする姿勢を感じることができました。これまでのていねいなサポートを、プランニング大分様には引き続きお願いしたいと思います」

 3年間の成果を踏まえ、藤内課長が改めて強調するのは“多様な主体との協働”です。

 「健康経営の考えが徐々に浸透し、積極的に取り組む企業や団体が増えています。行政としても、こうした“多様な主体”とお互いに真剣で楽しく協働できるようになってきました。地域・職場の環境が変わりつつあります」

 “多様な主体との連携・協働”こそ、県の「健康寿命日本一」へのさらなる推進力となることでしょう。

“多様な主体との連携・協働”を積極的に推進し、健康寿命の延伸に取り組む大分県健康づくり支援課(左から)藤本紀代美参事、藤内修二課長、佐藤貴子主幹
“多様な主体との連携・協働”を積極的に推進し、健康寿命の延伸に取り組む大分県健康づくり支援課(左から)藤本紀代美参事、藤内修二課長、佐藤貴子主幹