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「スマート和食®」で地域と職場に健康的な食事の普及を図る

 主要な生活習慣病の死亡率が全国ワーストクラスの岩手県で、今、新たな取り組みが始まっています。生活習慣病の元となる内臓脂肪をためない健康づくりの総合的推進です。その柱となる「スマート和食®」の発表会がこの度開催されました。

健康都市活動支援機構レポート No.13

働き盛り世代へのトータルな健康づくりに着手

 岩手県では、生活習慣との関連が強い脳・心臓血管系疾患が死因の30.8%を占め、全国の24.3%を大きく上回っています(2015年度)。脳血管疾患による年齢調整死亡率は、女性が全都道府県中ワースト1位、男性は同3位、心疾患では男性が同2位。しかも、これらの疾病による死亡率は65歳未満の働き盛り世代から高い状況にあります。

 そこで県は、働き盛り世代を中心とする住民の健康づくりの環境整備をめざす「県民主体の健康度アップ支援事業」を2018年度から始めました。(事業全体の概要はコラムを参照)

岩手県の「健康的な食事」に「スマート和食」を利用

 この事業の1つの柱となったのが、健康的な食事を地域で推進する環境整備です。

 事業を受託した花王株式会社は、岩手県の健康課題を踏まえ、県が従来から推進してきた「減塩」に加えて、内臓脂肪を減らすことを目的とした「スマート和食」の普及を提案しました。内臓脂肪に着目したのは、内臓脂肪が脳・心臓血管系疾患の共通の原因として知られていること、そして、事前(2017年秋)に県と連携して行った調査でも、岩手県民に内臓脂肪肥満の多いことが判明していたからです。


コラム

岩手県2018年度「県民主体の健康度アップ支援事業」の概要

 働き盛り世代の健康増進のため、県では「健康経営」(企業における経営戦略的な健康づくり)を推進しています。

 しかし、県内企業の多くは中小事業所であり、効果的な健康づくりを自力で選定・調達できるところは限られています。そこで、県が評価・採用した優良な民間プログラムを企業の従業員に対して提供することとし、2018年度から始めたのが「県民主体の健康度アップ支援事業」(事業規模:約3,300万円)です。

2018年度はプロポーザルで花王の「内臓脂肪を測って、くらしを通じて減らす」プログラムが採用されました。特色は、「内臓脂肪」に着目し、測定と、「歩く習慣」、「食習慣」の具体的な改善サポートを提供することです。参加したのは県内の22企業。当初の目標を越える、約1,100名が参加しました。

 まず、全企業に対し内臓脂肪の測定会を実施。健康状態と生活習慣の現状を「みえる化」し、生活改善への動機づけを行います。そのうえで全員に専用の歩行計「ホコタッチ」を配布して、約6ヵ月間、歩く習慣の改善を競いあう、「企業対抗チャレンジマッチ」を実施しました。

 3ヵ月後の内臓脂肪測定会では、歩く習慣の定着にともない内臓脂肪の減少傾向が確認されました。職場でのコミュニケーションが増えるという副次的な効果も得られました。

  続けて、一部(6企業)では、スマート和食を用いた「食習慣」改善プログラムも提供されました。(本文参照)


 「スマート和食」は、従来の日本型食生活が“内臓脂肪をためにくい”という栄養代謝的な特性があるという発見から、それを現代のおいしい食卓に取り入れた食事法です。食事の「量」よりも食事の「質」を改善することで、しっかり食べながら内臓脂肪を減らすことを目指します。食事摂取基準の範囲内で、①できるだけ脂質に対するたんぱく質の比率を高め、②糖質に対して十分な食物繊維をとり、③n-3系脂肪酸を含む魚介類の摂取を心がける……こうした食品選択がポイントです。(「スマート和食」の詳細は、「健康都市活動支援機構レポート」No.08、No.09、No.10にて報告されています。)

「スマート和食」の食事の「質」。3組の栄養素の「比」を高めることが、健康的な食事の「質」のポイント。同じ摂取カロリーでも、栄養素の組合せによって、代謝が変わり、内臓脂肪の蓄積を左右する。
「スマート和食」の食事の「質」。3組の栄養素の「比」を高めることが、健康的な食事の「質」のポイント。同じ摂取カロリーでも、栄養素の組合せによって、代謝が変わり、内臓脂肪の蓄積を左右する。

地域や職場に「スマート和食」を浸透させる取り組み

 「スマート和食」を地域に広めるため、3つの取り組みが行われました。

①「健康的な食事推進マスター」=「スマート和食」推進役の養成

 県内各地域の管理栄養士、栄養士、保健師、養護教諭などの専門職に「スマート和食」を学んでもらい、地域での特定保健指導や職場の取り組みを先導してもらうものです。管理栄養士の小島美和子先生や花王の研究員が講師を務める「スマート和食マスター講座」を県内4ヵ所(二戸、大船渡、奥州、盛岡)で開催。修了証を手にした受講者100名は、地域・職場で健康的な食事の推進役を果たします。

スマート和食マスター講座を県内4ヵ所で開催し、「健康的な食事推進マスター」を養成。
スマート和食マスター講座を県内4ヵ所で開催し、「健康的な食事推進マスター」を養成。

②「スマート和食」提供事業者の育成

 県内の給食事業者や弁当事業者に「スマート和食」に基づく食事提供の技術を導入し、製造・販売に至るまでの支援を行いました。花王が特許を含むノウハウと商標をライセンスし、日々の献立が「スマート和食」に適合することを監修。必要によりレシピも提供するものです。2018年度は4つの弁当事業者により、約4,300食の「スマート和食弁当」が販売されました。

企業の従業員に「スマート和食」のセミナーを開催。しっかり食べて太りにくい「くらし方」「食べ方」をレクチャー。
企業の従業員に「スマート和食」のセミナーを開催。しっかり食べて太りにくい「くらし方」「食べ方」をレクチャー。

③企業職場での「スマート和食」の活用

 健康経営を志向する企業で、「スマート和食」に基づく食習慣の改善サポートを実施しました。具体的には、歩行計を用いた「企業対抗チャレンジマッチ」(コラム参照)に参加した企業の中から6企業を対象に、内臓脂肪を測って、「スマート和食」のセミナーで学び、3ヵ月間「スマート和食弁当」を“食べる教材”として、食習慣改善に取り組むプログラムです。

昼食は職場で「スマート和食弁当」。これを手本に朝・夕の食事も少しずつ改善。
昼食は職場で「スマート和食弁当」。これを手本に朝・夕の食事も少しずつ改善。

 このように、地域から職場に至るまで、岩手県の“健康的な食事”である「スマート和食」を利用できる環境をトータルに整えたのが、今回の事業の特色です。

おいしく食べごたえも十分の「スマート和食弁当」に注目!

 こうした中、2018年11 月20日、盛岡市内で岩手県による「健康的な食事普及のための『スマート和食弁当』発表会」が開かれました。県内の弁当事業者が製造した様々な「スマート和食弁当」が展示される会場には、多くのメディア報道陣が取材に集まりました。

発表会では、岩手県、弁当事業者、利用職場の各代表が「スマート和食弁当」の価値を報告。 左から、(有)ひよこフーズ(弁当事業者)代表取締役 野村洋二氏、㈱アイディーエス(弁当利用企業)代表取締役 菅原達哉氏、岩手県保健福祉部長 八重樫幸治氏、㈱笠井(弁当利用企業)代表取締役社長 笠井成人氏、花王グループカスタマーマーケティング㈱岩手支店長 矢口順也氏。
発表会では、岩手県、弁当事業者、利用職場の各代表が「スマート和食弁当」の価値を報告。 左から、(有)ひよこフーズ(弁当事業者)代表取締役 野村洋二氏、㈱アイディーエス(弁当利用企業)代表取締役 菅原達哉氏、岩手県保健福祉部長 八重樫幸治氏、㈱笠井(弁当利用企業)代表取締役社長 笠井成人氏、花王グループカスタマーマーケティング㈱岩手支店長 矢口順也氏。

 県の佐々木 哲氏(保健福祉部健康国保課課長)が本事業について説明のあと、花王から「スマート和食」の考え方とその「弁当」を紹介。その後、県の関係者、弁当を利用している企業職場の代表、報道関係者など出席者全員で試食し、最後に県の八重樫 幸治氏(岩手県保健福祉部長)の講評と続きました。

 この日展示されたのは3事業者による弁当、12種類(セミナー弁当2種、日替わり弁当10種)。もっとも、これは例に過ぎません。「スマート和食」は、固定された献立ではなく、食事の「質」の規格を満たせばいくらでもレパートリーが増やせるところが魅力の1つです。


発表会で試食した「スマート和食弁当」。花王の監修のもと、地元業者が製造。しっかり、おいしく食べながら、内臓脂肪をためにくい食事の「質」を学び、健康的な減量ができる。見た目は普通のおいしそうな弁当だが、成分的には通常の製品より高たんぱく質、低脂質、高食物繊維に設計されている。5食に2食は魚の主菜を含む。左から、(有)ひよこフーズ提供、㈱クッチーナ提供、碁石給食㈱提供。

 「スマート和食弁当」を試食した報道関係者からは、「十分なボリューム感があり、味付けもしっかりしているので、継続しやすい」、「食べ応えのあるメニューなので、これで内臓脂肪をためにくいのなら、続けられるし、夕食づくりのヒントにもなりそう」などの感想が聞かれました。

 県の互野 裕子氏(保健福祉部健康国保課)も「スマート和食」の効果に期待を寄せています。「食事の配分を少し工夫するだけで、同じエネルギーでも、体の中で脂肪が燃えやすい体質をつくれることが魅力的です。制限するのではなく、おいしく食べながら内臓脂肪を減らせます。これを利用して、従業員の健康づくりを推進していただくことが大きな目標です」。

 この発表会の模様や参加者のコメントは早速、地元のテレビ、新聞等で報道され、県民にも広く伝えられました。おいしそうでボリュームのある見た目と、健康効果から、話題性も十分です。

発表会にはテレビ局、新聞社等、多くの報道陣が出席し、試食も。 メディアを通じて、「スマート和食弁当」の特色が県民に広く伝えられた。
発表会にはテレビ局、新聞社等、多くの報道陣が出席し、試食も。 メディアを通じて、「スマート和食弁当」の特色が県民に広く伝えられた。

「スマート和食」の“需要”と“供給”の拡大を通じて、県民の健康寿命延伸へ

 岩手県では、本事業を通じて、地域や職場で「スマート和食」が利用できる環境を整備する一方、今回の発表会のような機会を通じて周知し、今後、給食・弁当事業者(供給)と利用職場(需要)の双方をさらに増やしていく意向です。これにより働き盛り世代の健康づくりを広げ、生活習慣病の死亡率を低下させ、健康寿命の延伸をめざします。

 また、花王は次のように今後を見据えています、「今回の岩手県での取り組みで、初めて『スマート和食』を複数の事業者が提供し、複数の職場が利用するという、まさに地域での展開が実現できました。このモデルは、他の地域へも展開ができると期待しています。職場で食べる“健康的な食事”を手本に、ご家庭での食事や、ご家族にも、よい波及が考えられます。地域全体に良い食事環境が広がっていくよう、これからもサポートをさせていただきます」(花王㈱ ヒューマンヘルスケア事業企画部 マネジャー 森本 聡尚氏)。

 職場、家庭、そして地域と、各領域で“健康的な食事”の普及を目指す岩手県の「スマート和食」への取り組みは、これからも目が離せないようです。

 

※「スマート和食」は、花王株式会社の登録商標です。