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着実な健康づくりが実を結ぶ ~愛知県尾張旭市~

 尾張旭市は、2004年に健康都市連合に加盟し、同年「健康都市宣言」を行った。翌年4月には、健康都市連合日本支部設立の発起人メンバーとなり、「尾張旭市健康都市プログラム」を策定。同プログラムでは、「寝たきりにさせないまちづくり」「外に出かけたくなるまちづくり」「住み続けたくなるまちづくり」の3つの施策の方針を定め、まち全体で「健康都市尾張旭市」を目指している。

 

2016年からは健康都市連合の理事に就任。現在は、健康都市の取組と2030年までの国際目標であるSDGs(持続可能な開発目標)の17の目標を関連づけて、まちづくりを進めている。

同市のまちづくりの特色は、「市民との協働」だ。住民が主体的に地域コミュニティを形成し、様々な分野でボランティア等の取組を推進している。これは、SDGsの目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」に繋がるものであり、2018年にマレーシア・クチン市で開催された第8回健康都市連合国際大会において、WHOベスト・プラクティス賞を受賞した。

第 8 回健康都市連合国際大会の開会式(マレーシア・クチン市)
第 8 回健康都市連合国際大会の開会式(マレーシア・クチン市)

こうしたまちづくりを支えている主な3団体が、「健康づくり推進員会」「健康づくり食生活改善協議会」「スポーツ推進委員」である。

尾張旭市健康づくり推進員会

 市民が健康の維持・増進を図り、自立した日常生活を送ることができるよう、「筋力トレーニング」「ウォーキング」「笑いと健康」の3本を柱に活動している。特に「筋力トレーニング」の取組みでは、市主催の「らくらく筋トレ教室」修了者がつくる自主グループに健康づくり推進員が出向き筋トレの継続を支援しており、2019年3月末現在、65の自主グループ、約1500人が筋力トレーニングに取組んでいる。

尾張旭市健康づくり推進員会のメンバー(現在 30 名)
尾張旭市健康づくり推進員会のメンバー(現在 30 名)

 木島千代子会長らによると、同推進員会は現在、「らくらく筋トレ体操」に加え、さまざまな健康体操を取入れている。「筋トレだけだと飽きる」「脳トレも取り入れて欲しい」といった地域の要望に応えるためだ。「地域の健康リーダーとして『それは教えられません』と言うわけにはいきません」と熱い思いを語る。

向かって左から間瀬多栄子さん、木島会長、後藤勝子さん
向かって左から間瀬多栄子さん、木島会長、後藤勝子さん

また、推進員の指導力に差があってはならないとの考えのもと養成サークルを立上げ、14種類もの体操を習得することとし、月に一度の定例会のプログラムとして実演・指導する等、新しい取組みにも挑戦している。今までに転倒防止に向けた「水戸黄門体操」や誤嚥予防に役立つオリジナルの「ツバメ体操」を実施した。地域に紹介したところ、とても好評という。今後は市のイメージソング「MYCITY―ふるさと―」に合わせたオリジナル体操や笑いを活用した「ワッハッハ体操」、認知症予防の「コグニサイズ」、肩こり体操、タオル体操、脳トレ等、実施を予定するメニューは多彩だ。

 

「健康の維持・増進には、長く続けてもらうことが大事」と木島さん。「そのためにで皆でワイワイ楽しみながらやっています」。最近では、口コミで筋トレの入会者がさらに増えているという。

尾張旭市健康づくり食生活改善協議会

 「私たちの健康は私たちの手で」をスローガンに1997年に設立。食生活を通じて地域に健康づくりを広めている。健康づくりに関する食生活改善の知識の普及啓発のため、健康づくり教室や離乳食教室等の調理実習の手伝い、健康まつりへの参加、手作りの食育紙芝居による「保育園巡回食育教室」「おやこ食育料理教室」等、食べることの大切さを伝えている。2016年には、栄養関係功労者(食生活改善事業功労者・地区組織)に対する厚生労働大臣表彰を受賞した。

 

取材当日は「若者世代の食育料理教室」を愛知医科大学看護学部の学生を対象に実施。「ほうれん草のお浸し」や「豚薄切りのソースケチャップ焼き」等の料理を実習した。参加者からは「外食の機会が増え、栄養バランスの悪い食事を摂るようになっていた。食事を見直すよいきっかけとなった」「簡単に短時間で5品も作れてびっくり。減塩も慣れると美味しく感じた」「普段は料理をあまりしないが、今回を機会に取組む気になった。高血圧の家系なので塩分に気を付けたい」といった感想が寄せられた。

学生に指導する石井トシ子食生活改善協議会会長
学生に指導する石井トシ子食生活改善協議会会長
保育園巡回食育教室
保育園巡回食育教室
おやこ料理教室
おやこ料理教室

尾張旭市スポーツ推進委員

 市民にスポーツの実技指導を行い、市民のスポーツ活動をサポートすることを目的に、現在20人(各小学校区に2名程度)の委員が活動している。各種団体へのスポーツ推進委員派遣とともに、「ニュースポーツ体験会」、「ウォーキングイベント」、「ラジオ体操講習会」などを開催し、同市におけるスポーツ推進の取組みを行っている。

「ニュースポーツ」は生涯スポーツの推進や世代交流を育むアクティビティとして、全国各地で行われている。老若男女、障がいの有無にかかわらず、「キンボール」等みんなでいっしょに楽しむことができるものが数多くあり、同市も普及に力を入れている。現在は毎月小学校を巡回し、地域住民を対象にした体験会を、また、年度末にはニュースポーツフェスティバルを開催している。近年は高齢者を対象にした体験会にも力を入れており、シニアクラブ等に働きかけ人気を博しているという。

尾張旭市筋力トレーニングの科学的考察

 市民の健康リーダーが地域の健康推進に果たす役割は大きい。全国の自治体でそうした人々による運動や食育等の活動が盛んだ。一方で成果についての科学的考察が示されたことはあまりないと思われる。

 

そうした中、同市健康づくり推進員会は2016年11月に「数値化検討委員会」を発足し活動を開始した。2017年、同市健康課や長寿課とともに中部学院大学並びに介護老人保健施設清風苑の研究者や理学療法士に協力を依頼。各筋トレグループへのアンケート調査を行うとともに、測定による効果を検証し、論文を発表した。

 

アンケート調査の目的は教室参加の継続要因や同市ならではの特徴を明らかにすることで、58か所を対象に883名(男性144名、女性739名、平均年齢74.5歳)の回答を得た。

 

アンケート調査の結果、参加者は一般的な高齢者よりも日常生活能力や自信が高い人が多く、身体や精神面共に充実していることが明らかになった。運動継続の要因では「楽しい」「仲間がいる」とともに、「指導者がよい」「施設が近い」等、同市ならではの特徴が見られた。実際市内には、106の集会施設等があり、県内他市の5~6倍の利便性をもたらしている。

 

一方の論文の目的は「一定の教育体制が担保された推進員の有無が、住民主体の運動教室に参加した者の運動機能に及ぼす影響について縦断的に明らかにすること」である。運動教室参加者のうち体力測定を4年間連続して継続実施できた者185名を対象に、推進員が存在する教室118名と存在しない教室67名の2群に分類。体力測定の項目は、10m最大歩行速度、歩幅、最大脚伸展筋力、握力、開眼片脚立位時間の5項目に設定した。

 

結果、最大歩行速度では、推進員あり群で経過とともに最大歩行速度が増加していたことと、最大脚伸展筋力においても推進員あり群のみにおいて4 年後で最大脚伸展筋力が増加していたことを検証した。結論として、一定の教育体制が担保された推進員が運動教室に関わることで運動機能を向上することが可能であるとしている。なお、本論文は、2019年に開催された第28回愛知県理学療法学術大会で学術大会賞を受賞した。

数値は平均値±標準偏差を記載

分割プロットデザインによるニ元配置分散分析、シェイファーの方法で補正した多重比較検定 **:p<0.01

1) 1年後と比較して有意差あり。 2) 2年後と比較して有意差あり。 3) 3年後と比較して有意差あり。

nの値は一部の被験者がすべての測定に参加できなかったため一部と異なる。

 

[引用]二村誠、吉元勇輝(医療法人和光会介護老人保健施設清風苑リハビリテーション部)、千鳥司浩(中部学院大学看護リハビリテーション学部理学療法学科) 「住民主体の運動教室における推進員の有無が運動機能に及ぼす影響」(2019年12月、愛知県理学療法学会誌第31巻第2号、p46-p51)



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