健康都市オンラインセミナー(第3回)

健康都市連合日本支部は「持続可能な健康都市の展開のための指標の活用」について、WHO健康都市・都市政策研究協力センターとの機能連携により事業を推進している。目的は、多面的に「健康都市度」を評価する指標を作成するとともに、指標を活用することで、健康都市に係る各都市の強みや弱みを明らかにし、施策の検討や魅力あるまちづくりの推進に寄与することだ。本セミナーは、指標の基礎知識を共有するためにオンラインで開催された。最終回となる第3回では西信雄氏を迎え、栄養や食事、生活習慣がどのように非感染性疾患の発症や健康的な生活に影響しているのか講演いただいた。

西 信雄(国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所  国立健康・栄養研究所  国際栄養情報センター長)

WHOにおけるNCD対策

WHOはNCD(非感染性疾患)の多くは生活習慣の改善により予防が可能としている。これを踏まえ、厚生労働省による「健康日本21(第二次)」(2013年) は、がん、循環器疾患、糖尿病、COPD(慢性閉塞性肺疾患)の予防に禁煙、健康な食事、身体活動の増加、リスクを高める飲酒の減少を挙げた。参照にしたのが、「健康の社会的決定要因に関する概念的枠組み」だ。(図1)

 

重要なのは、健康格差をもたらす要因として、中間的決定要因(健康の社会的決定要因)と構造的決定要因(健康格差の社会的決定要因)を挙げたことで、医学分野だけではなく、幅広い関連要因を含めて健康を考えねばならないとしている。各要因間の因果関係は一方向ではなく、悪循環があるとすると、どこかでそれを断ち切らねばならない。

図1
図1

NCDの予防と対策では、2011年9月に国連総会ハイレベル会合が開かれ、宣言文には「健康の社会的決定要因」や「悪循環」の文言が盛り込まれた。これを受け、WHO西太平洋地域事務局はNCDの予防と管理のための行動計画を立て、決定要因のモニタリングを行うこととした。私が所属する国立健康・栄養研究所は国民健康・栄養調査の集計を担当していることもあり、「栄養と身体活動に関するWHO協力センター」として国民健康・栄養調査の技術や経験をもとにWHOや諸外国のサポートを担うこととなった。

国民・健康・栄養調査の概要

まず、国民健康・栄養調査の結果を紹介する。1950年~2015年の調査に基づく栄養素別エネルギー摂取構成比率を見ると、炭水化物からのエネルギー摂取率が減少した一方で脂質の比率が増えたことがわかる。食生活の欧米化が裏付けられている。(図2)

図2
図2

国民健康・栄養調査では、食事記録法の半秤量法を用いている。対象者に記録してもらう方法で、一日分の世帯の食事内容をすべて書き出してもらう。本調査では、所得と生活習慣等に関する状況(20歳以上)を作成したところ、世帯所得が少ないと女性の肥満の割合が高いことや、200万円未満だと朝食を摂らない割合が高いことがわかる。(図3)また、世帯所得が少ない方が、男女ともに習慣的に喫煙している割合が高いことも見て取れた。

図3
図3

食品群別摂取量では、200万円未満の世帯において穀類摂取量が多めである傾向を示している。(図4)一方で、いも類、豆類、野菜類、果実類、魚介類、肉類の食品群をあまり多く摂っておらず、主食中心の食事をしていることがわかる。

図4
図4

健康日本21(第二次)における栄養・食生活の目標項目

2013年度に開始された健康日本21(第二次)は、生活習慣の改善と社会環境の改善を基盤にしている。生活習慣の改善は主に個人が取り組むことであり、そのための社会環境の改善は行政の役割だ。

 

栄養・食生活の目標は5つあり、疾病・健康状態に関連する栄養状態や食物摂取、食行動、食環境の改善について、それぞれ目標項目が立てられた。(図5)

図5
図5

最初の目標である「適正体重を維持している者の増加(肥満、やせの減少)」では、顕著ではないものの、男性肥満の割合が20歳以上で増えていたことと、女性のやせの割合が20歳代で増えていたことがわかる。肥満の割合は、男性は50歳代で割合が最も高く、女性では年齢が上がるにつれて高くなっていた。

 

2番目の目標である「適切な量と質の食事をとる者の増加」には三つの小項目がある。一つ目の「主食・主菜・副菜を組み合わせた食事が1日2回以上の日がほぼ毎日の者の割合」では「主食・主菜・副菜を3つそろえて食べることが1日に2回以上あるのは、週に何日ありますか」の回答について、年齢が高いほどそうした食事を摂っている割合が高くなっていた。

二つ目の「食塩摂取量の減少」は10g前後ということで大きくは変化していなかった。ここでは、10.6gから8gまで下げた場合の高血圧の改善効果に注目したい。(図6)循環器疾患の目標である4mmHgの約半分の低下を、減塩2.6gで達成できるというのだ。国民全体でこうしたポピュレーションストラテジー(※1)を取れば、大きな効果が期待できる。

図6
図6

※1 ポピュレーションストラテジー:疾病や障害発生の危険因子をもつ集団について、集団全体の危険因子を下げる取り組み。

三つ目の「野菜と果物の摂取量の増加」はあまり進んでいなかった。年齢階級別に見ると、比較的高齢者が多く摂っていたことがわかる。

 

3番目の目標が「共食の増加(食事を1人で食べる子どもの割合の減少)」だ。一人で食べる場合に「身体のだるさや疲れやすさを感じることがある」「イライラする」とする身体状況を訴える割合が多かったことから、共食の重要性がうかがえる。

 

4番目と5番目の目標は環境面だ。4番目の目標では食塩や脂肪の低減に向けて取り組む食品企業や飲食店を増やすことを目標とした。また5番目の目標では、栄養の評価や改善を実施している特定給食施設の割合が学校等で70%を切っていたため、全体で80%まで増やすことを目標とした。

健康日本21(第二次)における栄養・食生活の中間評価

2018年9月の中間評価において、5つの目標のうち、a(改善している)に分類されたのが、前述した環境面の二つだ。一方で、b(変わらない)に分類されたのが「適正体重を維持している者の増加」「適切な量と質の食事をとる者の増加」「共食の増加」となった。

 

推移を見ると、肥満とやせの割合は目標に近いレベルまで行っているが、目標達成には到達していない。バランスのよい食事は80%、目標が60%でまだまだの状態だ。

 

そこで改めて目標設定の概念図を「栄養・食生活」と「飲酒」で対比する試みを行った。(図7)ところが概念図の構成にばらつきがあるため、「生活習慣の改善」及び「社会環境の改善」の目標設定の考え方を、各生活習慣の間で比較することが困難なことがわかった。食生活では食環境、食行動、食物摂取、栄養状態の流れがあるが、飲酒ではそのようなものがないためだ。

図7
図7

そこで何か比較できる方法はないかと探した結果、「社会生態学的モデル」で整理することとした。これは、ヘルスプロモーションの活動及び目標を個人(intrapersonal)、個人間(interpersonal)、施設(institution)、地域(community)、政策(policy)の5つのレベルで捉えるモデルだ。

 

「健康日本21(第二次)」の目標項目全体をこのモデルに当てはめてみると、合計22項目のうち16項目が個人の項目となり圧倒的に多く、それ以外では個人間と施設と地域が2項目ずつとなった(図8)。社会環境面が強調されているにもかかわらず、社会環境面を捉えることは今の目標項目では不十分な印象を与える。

図8
図8

「健康日本21(第二次)」では社会環境に関する項目があるにもかかわらず圧倒的に少ないのはなぜか。データソースを見ると、個人を対象とする「国民健康・栄養調査」がもっぱら使われていることがわかる。(図9)

図9
図9

一方で、個人間、施設、地域となると、これと決まった調査がない。理由は「国民健康・栄養調査」等の共通の調査が施設・地域レベルにないためだ。これだと体系的にデータを集めるのが困難だ。したがって、生活習慣及び社会環境のモニタリングシステムの構築が必要となる。

 

「栄養・食生活」と「飲酒」の目標項目を対比させると、「栄養・食生活」では①と②の個人レベルと、個人間レベルのものが中間評価bだった。(図10)

 

比較的よい評価となったのが④と⑤でa評価だ。一方、「飲酒」は個人レベルの目標のみで、①、②、③がb、a、a評価で比較的よい結果が得られた。しかし、社会環境面での評価は飲酒ではわからない。目標項目の設定が適切でない可能性(指標が鋭敏でない、タイムラグがある等)がある。

図10
図10

ここで、「因果ループ」を紹介したい。(図11) 「システム・ダイナミクス」(※2)という方法でシミュレーションを定量モデルで行えるが、定性モデルとしてはこのような因果ループの図を作成することができる。例えば人口に関する因果ループ図では、出生数と人口の関係について他の条件がすべて同じだとすると、出生数が増えると人口が増える、或いは人口が増えると出生数が増えることで、互いに循環する増強ループとなる。

 

一方、死亡数が増えれば人口が減り、人口が増えれば死亡数が減る打ち消しあう関係は平衡ループとなる。こうした因果関係を概念図として描いたのが上の図だ。さまざまな因果ループの中で、「これが大事」という変数がわかれば、それを目標項目に設定できる。それにより、環境面の変化がどれくらい個人レベルに及ぶのか把握できると考える。

図11
図11

※2 システム・ダイナミクス:物事をシステムとしての全体像でとらえ、要素間のフィードバック構造をモデル化し、問題の原因解析や解決策を探るためにシミュレーションを行うことで、実社会に存在するさまざまな問題の効果的な解決を図るアプローチ。

持続可能で健康的な食事

2019年、FAO(国連食糧農業機関)とWHO が「持続可能で健康的な食事」を発表し、健康に役立ち地球にもやさしい地域食として日本食が地中海食や北欧食と並んで紹介された。(図12)

図12
図12

同年、世界16カ国の各分野の研究者37名がエビデンスに基づき、「人間の健康と持続可能な食糧システムを実現する解決方法」として「プラネタリーヘルスダイエット」のガイドラインを発表。肉や魚、卵とともに砂糖や精製穀物、でんぷんの摂取を抑える食生活を推奨するもので、権威ある英国の医学誌「Lancet(ランセット)」に掲載された。

 

課題はポピュレーションストラテジーだ。「健康づくり」 のように意識の高い人を対象にするのではなく、ポピュレーション全体に働きかける方法をもっと考えねばならない。


西 信雄(にし のぶお)氏

 

国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 

国立健康・栄養研究所 国際栄養情報センター長

 

1988年大阪大学医学部卒業。1992 年同大学院博士課程(公衆衛生学)修了。2012年同志社大学大学院ビジネス研究科修了。宝塚市立健康センター、岩手医科大学、放射線影響研究所等を経て現職。現在、国立健康・栄養研究所国際栄養情報センター長として、栄養と身体活動に関するWHO協力センター長を務める。