
食育の優れた取り組みを表彰する農林水産省「食育活動表彰」。9回目の今回、青森県の弘前市食生活改善推進員会(会員126名。以下“食改さん”)がボランティア部門「食生活改善推進員の部」で審査委員特別賞を受賞しました。

「うれしいです! 先輩方が築いてきた活動、会員の頑張り、市の協力と支援のおかげです。花王さんの力も大きいですね」。受賞の喜びを語るのは、同会会長の斎藤明子さん。受賞した食育活動のポイントになったのは、地域の健康課題にぴったりのレシピ集でした。

弘前市の健康課題は

人口約16万の弘前市は、全国一の生産量を誇るリンゴや、弘前さくらまつり、弘前ねぶたまつりでも知られ、津軽十万石城下町の面影を今も色濃く残すまちです。
「弘前市は平均寿命、健康寿命が堅調に延伸しているものの、全国と比較するとまだ短い状況」と話すのは、市の健康こども部 健康増進課の小山内さとみ氏(健康づくり総合推進係、主任管理栄養士)です。
とくに男性の早世死亡率(65歳未満の死亡)が高く、要因としては、健(検)診の低受診率、糖尿病・高血圧・メタボリックシンドローム該当者及び予備群が多く、大人も子どもも肥満が増加傾向にあることなどが挙げられます。
「健康とまちのにぎわい」の創出へ

こうした中で市は“健康都市弘前” の実現を掲げ、子どもから高齢者まですべての市民が健康で長く活躍できるとともに、雇用創出や所得向上等により、すべての人々がいきいきと住み続けられるまちづくりをめざしています。
2022~2024年度にわたり実施された「健康とまちのにぎわい創出事業」では、弘前大学や同大学COI-NEXT(文科省共創の場形成支援プログラム)に参画する企業の力を活用して、市民の食生活改善や健康意識向上に向けた取り組みを進めてきました。
“食改さん”と花王による「しっかり食べて太りにくいスマート和食Ⓡコラボレシピ集」もそのひとつです。
“食改さん” と花王のコラボレーションが始まる
2022年度、“食改さん”と、弘前大学COI-NEXTに参画する花王による「スマート和食Ⓡを活用したコラボレーションが始まりました。狙いは、働き盛り世代とその家族の内臓脂肪を毎日の食事を通じて減らすことです。
“食改さん” たちは、まず自ら「スマート和食Ⓡ」を花王のスマート和食担当から学び、自分のものに。この実践をもとに翌年には、郷土料理を取り入れるなど工夫を凝らした「スマート和食Ⓡ」レシピ集を作成。慣れ親しんだいつもの食事と、サイエンスに裏づけられた健康的な栄養バランスが融合されたものになりました。
食改活動50周年記念に作成したレシピ集と併せ、これらをツールとして食育活動やテレビ・雑誌などの広報にも活用市の協力もあり、地域・職場に広くPRできました。

内臓脂肪の蓄積は、糖尿病、高脂血症、高血圧、肝機能低下などさまざまな生活習慣病をもたらします。スマート和食Ⓡは、花王が長年取り組んできた栄養代謝研究、とくに内臓脂肪に着目した研究から生まれたもので、「しっかり食べて、内臓脂肪をためない」食事法です。食事の「質」と「時間」、中でも「質」における 3つの「比」を重視するもの。食べる量を減らしたり、我慢を強いるのではないので、誰もが取り組みやすい食事法として注目されています。
また、市企画部企画課では、“食改さん”の協力のもと、弘前大学医学部生を中心とした団体「NPO法人ココキャン」とスマート和食Ⓡ普及イベントを行いました。そのほかにも、スマート和食Ⓡレシピ集のメニューを提供してくれる市内店舗を募集。こうした場でもレシピ集を配布しました。これまでアプローチできなかった若い世代や、まちの飲食店にも、食生活改善の試みを広げ始めています。
「市民の健康まつり」で“食改さん” が市民に積極アピール
今年で38回目を数える弘前市「市民の健康まつり」でも、レシピ集は大活躍。
食生活改善推進員会は、「食生活改善推進コーナー」で昨年に続きスマート和食Ⓡをテーマに、試食やパネル展示、レシピ集の配布を行いました。
今回の試食は、「スマート和食Ⓡ」レシピ集に掲載されている副菜レシピのひとつ「簡単エリンギナムル」(400食分用意)。
試食した市民からは、「おいしい」の声だけでなく、調理の手軽さに驚きの声も。「チンするだけでこんなにおいしくできるなんて」、「味がしっかりしている」、「野菜が苦手な子がおいしそうに食べたのでびっくり」などの感想がたくさん寄せられました。

今回の試食は、「スマート和食Ⓡ」レシピ集に掲載されている副菜レシピのひとつ「簡単エリンギナムル」(400食分用意)。
試食した市民からは、「おいしい」の声だけでなく、調理の手軽さに驚きの声も。「チンするだけでこんなにおいしくできるなんて」、「味がしっかりしている」、「野菜が苦手な子がおいしそうに食べたのでびっくり」などの感想がたくさん寄せられました。
ブースには、“食改さん”の食生活改善への熱意と細やかな配慮が随所に感じられ、たくさんの市民が健康的な食生活に触れる機会を得ました。
健康増進課小山内氏は、“食改さん”の啓発活動をこう評価しています。「“しっかり食べられてボリュームもたっぷりありながら、内臓脂肪がたまりにくい食事”がどのようなものか、市民の皆様にご理解いただけたと思います。『スマート和食Ⓡ』レシピ集を普及できたことは、たいへん有意義なことです」。
ブースの賑わいと市民の笑顔に、斎藤会長は「活動すれば、笑顔をいただける。それが一番です」と目を細めていました。
弘前市職員自ら「スマート和食Ⓡ」を体験し手応え!
こうした“食改さん” の活動を支えてきたのが、市の健康増進課です。斎藤会長は今回の受賞の要因として「行政と市民団体が車の両輪として活動したこと」を挙げています。
じつは市も昨年度、市役所職員を対象に自ら「スマート和食Ⓡプログラム」に取り組みました。職員50名が参加し約1ヵ月実践。その結果43名(86.0%)の内臓脂肪が減少。またプログラム終了後のアンケートでは「健康に対する意識が高まった」「プログラム終了後も引き続き同様のことを実践してみたい」との回答が得られました。企画課は、「『スマート和食Ⓡプログラム』が参加者の健康意識向上や健康増進に効果があった」と、この実体験を市民への啓発につなげようとしています。
受賞につながった食育活動の特色
“食改さん”、弘前市、花王の3者連携による今回の活動の特徴は、5点挙げられます。
➊スマート和食Ⓡが、前述した弘前市の健康課題とマッチしたこと。内臓脂肪に着目し、レシピだけでなく、「食事5ヵ条」「くらし方3ヵ条」など食生活全般の改善を提案。
❷スマート和食Ⓡがエビデンスに裏付けられ、信頼感を得ていること。花王の長年の取り組み、また弘前大学COI-NEXTでの研究・実践の蓄積が反映されている。
➌スマート和食Ⓡが「取り組みやすいコンテンツ」であること。“量”を減らすのではなく“質”を変えるものなので、腹持ち感を充たすことができる。
➍市と“食改さん”が“車の両輪”として動き、医学生や飲食店をも巻きこんだこと。
❺そして何よりも、“食改さん”が“楽しく” 全力で取り組んだこと。創立50周年を記念して郷土料理を活かした「食改さんおすすめレシピ集」、さらに花王と協力して「スマート和食Ⓡ」レシピ集を作成。これらリーフレットを活用し、発信力を高めたこと。
PFSの手法も採用し、新たなステージへ

斎藤会長はこれからの抱負を語ります、「創立以来53年、『私達の健康は私達の手で』をスローガンに、子どもから高齢者までの食育と健康づくりの活動をしてきました。これからも“三つ子の魂百まで”ならぬ“三つ子の味覚百まで”を掲げてさらに取り組んでいきたい」。
一方、市もこれまでの成果を踏まえ、「今後も、産学官民それぞれの強みを活かしながら手を携えて“健康都市弘前”の実現に向けて取り組みを進めます」と話します(健康増進課 小山内氏)。

市では、昨年度までの「健康とまちのにぎわい創出事業」に続き、今年度から「メタボリックシンドローム予防・改善事業」が始まります。「弘前大学が開発した啓発型健診『QOL健診』と併せて、弘前大学COI-NEXTに参画する企業や地元企業が提供する健康プログラムをPFS(Pay For Success、成果連動型民間委託契約方式)にて実施します」(企画部企画課主事長内夏希氏(地域振興担当))。

他方、民間の花王GENKIプロジェクトの黒田浩子氏(チームリーダー、管理栄養士)は、「今回の受賞は私たちにとってもたいへんうれしいこと。スマート和食Ⓡをもっと広く知っていただくために、ツールやコンテンツをさらに充実させたい」と決意を新たにしています。
農水省食育活動表彰受賞として結実した、“食改さん”、弘前市、民間(花王)による連携は、次のステージへと歩みを進め始めています。PFSという新手法でスタートする「メタボリックシンドローム予防・改善事業」も展開が楽しみです。
※弘前市食生活改善推進員会×花王コラボレシピ「しっかり食べて太りにくいスマート和食Ⓡ」は、弘前市サイトから入手できます(【弘前市スマート和食】で検索)。
※「スマート和食」は、花王株式会社の登録商標です。